アングル:「人種優遇」禁止、最高裁判決で変わる米ロースクールの入学選考(24年1月7日 ロイター日本語電子版無料版)

 

記事の概要

(2)「連邦最高裁判所が6月「アファーマティブ・アクション(積極的是正措置)」禁止判決」

(3)「学校側は学生構成の多様性の維持と新しい法律の遵守の両立に苦慮」

(4)「学生の人種構成は法曹界の多様性に直結する」

(5)「保守派は法曹界の多様性促進プログラムに異議を唱える動き」

(6)「人種情報の収集は良いが、それを選考に用いることを禁止している」

(7)「論文やパーソナルステートメント(自己アピール文書)の中で自分の人種を明かせばいい」

(8)「面接試験を行うロースクール入学事務局も増えている」

(9)「受験生は入学願書の使い回しができず受験手続きに時間がかかるようになった」

(10)「入学事務局の仕事は前よりも大変になった」

 

記事[12月26日 ロイター (Karen Sloan)] - 

 

(1)ジョージタウン大学ローセンターの入試担当事務局を率いるアンディ・コーンブラット氏とそのチームでは長年、入学希望者の人種を知るのは当たり前のことだった。該当する欄にチェックが入っているからだ。

今後はそうは行かない。

 

(2)「連邦最高裁判所が6月「アファーマティブ・アクション(積極的是正措置)」禁止判決」

ジョージタウン大学を含む複数のロースクールは、出願書類で志願者の人種を記入する欄を隠すことに決めた。

連邦最高裁判所が6月、人口のわりに入学者数の少ないマイノリティーの学生をキャンパスで増やすために各大学が長年採用してきた「アファーマティブ・アクション(積極的是正措置)」を実質的に禁止する判決を下したことを受けた措置だ。

 

(3)「学校側は学生構成の多様性の維持と新しい法律の遵守の両立に苦慮」

(各ロースクール)

 これまでの選抜方法の見直しを迫られている。

学校側が学生構成の多様性の維持と法律順守を両立させようと苦慮する中で、これまでのところ、例年以上の時間をかけ、異なる手法を使った入学選考が行われている。

(ロースクール入学判定評議会(LSAC)で業務担当執行バイスプレジデントを務めるスーザン・クリンスキー氏)

「長い経験の中でも、最も総合的な入学選考プロセスになっている」と語り、全般的な傾向として、各校の入学担当事務局が志願者の出願書類をより細かく審査するようになっていると指摘する。

LSACは「法学大学院進学適性試験」(LSAT)を管轄し、ロースクールへの出願に関する全米規模の集約拠点となっている。

 

(4)「学生の人種構成は法曹界の多様性に直結する」

 1)アファーマティブ・アクションが禁止された影響を受けて、各ロースクールが黒人やヒスパニック、ネイティブアメリカンの学生を中心とするマイノリティーの入学者数を維持ないし増加させることができるかどうかは、法曹界の多様性に直結する問題だ。

 2)「弁護士に占める有色人種の比率」

 米国の総人口に占める比率に比べ大幅に低い。

 米国法曹協会のデータによれば、前者は21%。後者は41%だ。

 

(5)「保守派は法曹界の多様性促進プログラムに異議を唱える動き」

(多様性推進を主張する人々)

今回の判決によって、マイノリティーの弁護士の増加に向けた数十年にわたる進捗と取り組みが後退してしまうのではないかと懸念している。

(保守派グループ)

 すでに、今回の判決に乗じて、法律事務所や弁護士協会における多様性促進プログラムに異議を唱える動きがある。

 

(6)「人種情報の収集は良いが、それを選考に用いることを禁止している」

今回の最高裁判決は、大学側が志願者の人種を確認することを妨げるものではないが、その情報を選考に用いることは禁じている。

(コーンブラット氏)

 人種の申告を受けることを選択したロースクールは知らないと述べた。

(クリンスキー氏)

 いくつかのロースクールがその慣例を続けているという。

LSACは、それぞれに該当するロースクールの数については明らかにしていない。

 

(クリンスキー氏)

 人種に関するデータを収集しなければ、訴訟を起こされる潜在的なリスクを回避できると説明する。

(ジョージタウン大のコーンブラット氏)

 志願書の人種申告欄を伏せることで、大学側を守ることができると話した。

 

(7)「論文やパーソナルステートメント(自己アピール文書)の中で自分の人種を明かせばいい」

だが、人種や多様性という要素が合否判定から完全に排除されたわけではない。

連邦最高裁の見解では、論文やパーソナルステートメント(自己アピール文書)の中で志願者が自分の人種や生い立ちについて論じることは問題なしとされており、多くのロースクールでは、入学事務局が志願者についてより深く理解できるよう、論文試験を追加している。

(ハーバード大学ロースクール)

 志願者に対し、

  1)法曹界でのキャリアを目指す理由に触れた「志望動機」と、

  2)自らを形作ってきた経験や生い立ち、関心事などを説明する「自己紹介」

の提出を求めることとなった。

これまでの、もっと一般的なパーソナルステートメントと、任意提出の多様性申告書に代わるものである。

 

(8)「面接試験を行うロースクール入学事務局も増えている」

(クリンスキー氏)

 志願者についてさらに情報を集めようと、志願者の一部または全部を対象に面接試験を行うロースクール入学事務局も増えているという。

(ロースクール入学選考の専門コンサルタントであるマイク・スパイビー氏)

論文や面接が追加され、それに要する時間が増大する中で、志願者・学校双方にとって今年の入学選考のサイクルはスローダウンしている、と語る。

 

(9)「受験生は入学願書の使い回しができず受験手続きに時間がかかるようになった」

ロースクールの入学希望者にとっては、複数の受験先で使い回せる単一の入学願書の代わりに、学校ごとに論文を書かなければならなくなったせいで、受験に時間がかかるようになっている、とスパイビー氏は言う。

また入学事務局の側でも、合格者を決定するために目を通さなければならない資料が増大している。

 

(10)「入学事務局の仕事は前よりも大変になった」

ロースクールの大半では、8月か9月に出願受付を開始しており、入学許可の手続きは、補欠合格者の繰り上げという形で晩春から夏まで続いていく。

LSACのデータでは、今年の入試サイクルでは、当初は志願者数が前年比3%以上も少なかったが、その後回復し、現在では4%増となっている。

「この仕事をやるようになって25年間で一番ペースの遅い入試サイクルになっている」とスパイビー氏は言う。

「(連邦最高裁の判決など)いろいろ変化があったからだ。入学事務局の仕事は前よりも大変になっている」

(翻訳:エァクレーレン)