大機小機 デフレの真因は終身雇用にあり(青獅子)(23年12月20日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)日本経済は2023年、新型コロナウイルス禍の停滞から急速に回復している。

国内総生産(GDP)成長率は年前半に実質で年率4%を超えた。7~9月期はマイナスとなったが、12月の日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)は景況感の改善を示した。

高い物価上昇率を伴う経済回復で、長年のデフレ体質からの脱却が視野に入った。

23年の賃上げ率が30年ぶりの高さになり、24年も同様の賃上げ率が予想される。時代局面の変化を感じさせる。

 

(2)なぜバブル経済崩壊後の停滞が30年以上も続いたのか。

 1)バブル崩壊後、企業は過剰な債務に苦しみ、借金返済のため投資など支出面では緊縮せざるを得ず、経済全体のブレーキとなった。いわゆるバランスシート不況だ。

 2)法人部門の資金余剰・不足をマクロデータで見ると、一時はGDPの10%以上にまで拡大した資金不足は、90年代を通じて徐々に縮小し、2000年代には健全な余剰状態に回復した。

 3)現代史の大きな謎は、なぜその後も経済のデフレ傾向と成長の停滞が20年続いたか、という点だ。

 

(3)それを解く鍵は、日本独自の終身雇用制度の存在にある。

 1)日本のビジネスマンの多くは一生同じ会社で働き続ける会社人間である。

  支出の引き締め、コストカット重視が10年以上続くなか、それを評価された人材が次々に組織の階段を昇った。

 2)そのため、企業の財務状況が改善しても企業行動は容易には変わらなかった。

 3)支出抑制続きで総需要が伸びずデフレ傾向となり、値上げできないのでコストカット偏重の行動が固定化する。

 4)賃金も停滞するという悪循環に陥った。

 

(4)「財政金融の過剰な緊縮姿勢も終身雇用制度の弊害」

デフレ長期化のもう一つの要因は財政金融のマクロ政策の過剰な緊縮姿勢。ここにも終身雇用制度の弊害がある。

財務省も日銀も終身のキャリア実務者で占められ、伝統的な財政均衡論者やインフレファイターとして評価された人々が、組織に長く強い影響を持つ。

政策コミュニティーの中で主流的見解に異論を唱えることが、純粋な政策議論を超えて組織全体への敵対と受け取られる傾向がある。

人材流動性が高い欧米の議論の自由度とは趣が異なる。

金融政策分野では知識・経験が豊富な研究者が日銀総裁になり変化はみられるが、脱デフレを確実にする上で再点検したい観点だ。

(青獅子)