なぜヌードモデルは女性なのか 違和感にみるアート界「フェミニズム」の変革と課題(23年12月16日 産経新聞オンライン無料版)

 

記事(横山由紀子)

 

写真 「フェミニズム絵画展」を開いた金谷千慧子さん=大阪市北区の大阪市中央公会堂

 

(1)要点「金谷千慧子さん(84) 女性モデルはなぜ裸なのか」

半世紀以上にわたって、女性の社会進出などの問題に取り組んできた金谷千慧子さん(84)が、趣味で油絵を学ぶ中で、ヌードモデルに感じた違和感から書き下ろした『フェミニズムとわたしと油絵―「描かれる女性」から「表現する女性」へ』(明石書店)を刊行した。ヌード絵画を端緒に、絵画の歴史をひもときながら、時代の変遷とともに女性がどのように描かれてきたかを解説している。

 

(2)大学での「女性学」の講義や、NPO法人「女性と仕事研究所」の代表理事として、女性の活躍を後押しする活動に携わってきた金谷さんは、学問としての日本のフェミニズムの歴史に先鞭をつけた一人だ。

仕事をリタイアした10年ほど前から、趣味の油絵に没頭。絵画教室で女性のヌードモデルが登場することに、「女性だけが見られる対象として画題になるのは、どうしても違和感があった」と話す。

 

(3)絵筆が止まり、逡巡することもしばしば。裸体に着衣を着せて描き変えてしまうことが多かったという。

「絵画の世界においても、まだまだ女性はモデル(ヌード)として描かれる立場であり、美の対象、鑑賞の対象となる場面が多い」という思いで筆を執り、女性とアートの関係を考える一冊を書き上げた。

 

(4)西洋絵画の世界では14~16世紀のルネサンス期、宗教の影響力が薄まって女性の裸が大きく解禁され、ボッティチェリの「ビーナスの誕生」、ティツィアーノの「聖愛と俗愛」などの絵画が登場した。

19世紀後半には、性に対する社会の認識が寛容になり、ヌード絵画は円熟味を増す。

フランスのサロンで職業モデルによる女性ヌードが盛んに描かれるようになるのもこの頃だ。金谷さんは「日本の春画などもそうだが、ヌードとは性的関心を形にする表現のことだと思う」と指摘する。

 

(5)米国のウーマンリブ運動の影響で、1960年代後半からは男女平等を求める闘いが芸術分野にも拡大した。「フェミニズム・アート」の潮流が起きると、男性の世界観が投影されたオブジェとして「描かれる存在」だった女性が、「表現する主体」として、芸術活動に本格的に関わっていったという。

 

その活動は、男性の視点で描かれた作品や、描き手や批評家ら男性中心で占められた美術界に対して問題を提起し、女性の生活や経験を反映した芸術を作ろうとするもの。その担い手となったのが、米国のジュディ・シカゴ、ジョージア・オキーフ、日本の草間彌生らだ。

 

(6)金沢21世紀美術館(金沢市)では令和3~4年、フェミニズムを冠した2つの展覧会を開催した。家族、母性、異性愛などを題材に多様な作品が展示され、話題を呼んだ。

金谷さんは10月中旬、大阪市中央公会堂で「フェミニズム絵画展」を開き、自らの油絵を展示した。ヌードモデルを描く絵画教室の風景や、ヌード絵画を着衣にして描き直したもの、1995年に北京で行われた世界女性会議の様子など、力強い鮮やかな色彩で描いた作品が並んだ。

 

(7)金谷さんは「女性が描き手となることはもちろん、女性作家を育てる教育制度や、作品を批評する人材の育成、展覧会施設の増設、支援する資金の調達など、まだまだ多くの改革が必要だと思う」と語った。(横山由紀子)

 

かなたに・ちえこ

昭和14年、大阪市生まれ。大阪市立大(現・大阪公立大)法学部・経済学部大学院前期博士課程修了。京都精華大、同志社大、関西大などで「女性学」を講義。平成5年、女性と仕事研究所を設立。12年にNPO法人化し、26年まで代表理事を務めた。著書に『企業を変える女性のキャリア・マネージメント』など。