やさしい経済学 財政の持続可能性を考える(2) 日本も経験したデフォルト 駒沢大学准教授 江口允崇(23年12月4日 日本経済新聞電子版)
記事
(1)バブルが崩壊し政府債務が急激に膨らんだ1990年代以降、日本では財政破綻(デフォルト)の可能性を巡って様々な議論が交わされてきました。
しかし、政府のデフォルトに関する包括的なデータベースが構築されたのはここ10年ほどのことです。それ以前は、政府のデフォルトの事例は詳しく知られていませんでした。
(2)政府のデフォルトの包括的なデータベースを初めて構築したのは、米ハーバード大学のカーメン・ラインハート教授とケネス・ロゴフ教授の研究です。
世界66カ国の800年に及ぶ公的債務のデータを収集し、1800年以降で対外債務のデフォルトが250件以上、国内債務のデフォルトが70件以上起きていることを示しました。
また、カナダと英国の中央銀行は2014年から、政府のデフォルトに関するデータベースを共同で作成しており、1960年から2022年まで、161カ国の公的債務のデフォルト事例が収録されています。このデータベースでは1960年以降、政府の財政破綻は151件発生し、自国通貨建て債務についても36件が報告されています。
(3)「何をもって政府のデフォルトとするか」
政府のデフォルトについて議論する際に問題となるのは、何をもって政府のデフォルトとするかということです。
前述の研究などでは、債務の全部または一部不履行といった狭義のデフォルトに加え、金利や満期の変更といったリスケジューリング、不利な条件の債権への強制的な転換、旧通貨を不利な条件で新通貨に交換する通貨改革も、デフォルトに含めています。
(4)「旧通貨を不利な条件で新通貨に交換する通貨改革もデフォルト」
通貨改革を含めることについては、意外に思われるかもしれません。しかし、中央銀行も政府に含まれるという立場(統合政府)をとれば、中央銀行の債務である通貨も政府債務の一部であり、通貨改革もデフォルトの一種となります。
(5)「日本1946年預金封鎖を行い旧円と新円を強制的に切り替えたデフォルト」
その典型例は終戦後の日本です。
日本は46年にインフレ対策と称し、出金制限を設けて預金封鎖を行い、旧円と新円を強制的に切り替えました。これは不利な条件での通貨改革に該当するため、ラインハート氏らの研究ではデフォルトの事例としています。