認知症予備軍 進行防ごう(10月30日日本経済新聞) 

思い出・運動・音楽 療法広がる 

 

(1)認知症は高齢者の7人に1人。

それを抑えるには、50代半ばから増え始める予備軍の「軽度認知障害(MCI)」の人が認知症に移行するのをいかに防ぐかがカギを握る。

 

(2)認知症予防は以前から、薬物に頼らない「非薬物療法」が試みられてきた。

 その一つが1964年に米国の精神科医バトラーが提唱した「回想法」。

古い生活用具や写真などを手掛かりに、記憶をよみがえらせて思い出を語る。

脳の活性化や、自己肯定感を高めるのが狙い。

近年は地域の民具などを使った「地域回想法」を行う博物館や民俗資料館が目立ってきた。

 

(3)2011年から取り組む氷見市立博物館(富山県氷見市)は幼い頃や仕事などをテーマに設定、高齢者が民具を囲んで思い出を語り合う。

15年5~7月には高齢者施設の入所者7人(平均年齢92歳)に週1回、1時間のグループ回想法を行った。

ある介護職員は99歳の女性は初めは無関心だったが、参加するごとに表情が豊かになり、5回目には「懐かしい」と民具を手に取った。

介護職員は「最後の8回目には古い歌を上手に歌ってくれるまでになった」と驚く。

 

(3)ナゴヤダンスアカデミー(名古屋市)で週1回の「コグニダンス」教室。

生徒の多くは、MCIの70歳以上の男女。

この試験ではコグニダンスをしたグループは楽器演奏や講座受講のグループに比べ、知的機能の低下を抑えられたことが分かった。

西尾公男さん(78)は「記憶力テストの成績が2倍にアップした」と笑う。

足のステップなど次の動作を考えながらの有酸素運動となり、「体を動かす、頭を使う、人と触れ合うという認知症予防の3要素を兼ね備えている」と語る。

 

(4)三重大学病院(津市)は12年に専用室を開設し、

 11~12年には三重県御浜町と紀宝町の健康な高齢者を

▽音楽と運動を組み合わせたエクササイズをする音楽体操群

▽運動だけをする体操群▽

音楽、運動はしない群――に分けて認知機能の変化を調査した。

その結果、音楽体操群は他の群に比べ、物の状態などを素早く正確に認識する「視空間認知」や頭の回転の速さを示す「精神運動速度」で大きな改善があった。

佐藤准教授は「運動に適切な音楽伴奏を加えることで、認知症予防の効果は高まるのではないか」と話している。