2011年2月10日
いつもと変わらぬ夕暮れの散歩道。
日本海岸に沿い建てられた奎吾の小さな家は、海から少し離れた丘の上にあった。
夕方五時頃、海岸を散歩するのが日課だった。
丘を下り海岸をゆっくり歩いていた。
いつもと変わらぬ風景。
冬の強い潮風が運ぶ香りが奎吾の身体を包んでいた。
夏は早朝も散歩するが、冬は冷え込みが強くとても散歩する気にはなれなかった。
海猫や鴎(かもめ)が高波が舞い上げる潮の隙間を生き生きとかいくぐる景色を、奎吾は太陽が海に沈む間際まで眺めていた。
奎吾にとって、夕暮れの海は何か自分と重ね見ている感があった。
なんとなく太陽が最も光り輝く瞬間を見ている気がしていた。
日の出よりも。
それはギリギリの命の輝きにも似た、儚くも悲しい光を思い浮かべているのかもしれなかった。
根暗な人間ではなかったが、人と接するのが苦手だった。
結婚し子供も3人いたが、一昨年末に離婚していた。
市内にあった自宅は妻と子供たちに譲り、自分はこの小さな海際のにある家を友人から譲り受け一人で暮らしていた。
離婚の原因など奎吾にとっては取り立てて言葉にするほどのことは無かったが、妻にとっては大ありだったようだ。
離婚して一年が過ぎ、今の奎吾の心は不思議なくらいスッキリした気分だった。
そうそう。
この家には、もう一人の住人がいた。
"こまめ"というメスの三毛猫。
以前からこの家に住んでいたのだ。
前の住人にそのまま置き去りにされたらしく、友人が時折食事を与えていた。
こまめは奎吾より先に住んでいた住人ということになる。
この家を譲ってくれた友人の名は袴田安一という男だ。
海岸沿いにいくつもの貸し別荘やロッジを幾つも所有し、奎吾とは小さい頃からの友人だった。
ご多分に漏れず、この安一も離婚し一人暮らしをしていた。
安一にとっても奎吾は良き独身仲間ということになる。
奎吾が離婚するという話を聞いて、真っ先に喜んだのは安一だった。
この家も貸別荘だったが、もう大分古くなり誰も借りなくなっていたので、奎吾の住処にするには絶好の場所だと思い、安一はすぐに奎吾を引っ越しさせた。
奎吾も、安一のおせっかいに近いお世話になりながら、なんとか生活のリズムも掴めた。
奎吾は散歩を終え自宅に戻った。
奎吾が歩くたびに軋むウッドデッキ。
ギシギシという音をさせながら、ギギーッと音がするドアを開け室内に入った。
海側のこのドアには鍵が掛からない。
安一に言っても一向に取り合わない。
いや、彼がいつでも遊びに来て入りやすいままにしたいのだろう。
こあめも、安一と同意見だということは知っていた。
だから鍵は直さないままだった。
部屋に入り、奎吾はこまめに"ただいま"の挨拶をし、ロッキングチェアーに腰掛けcoffee cup に口を付けようとした時だった。
キッチンテーブルの上に無造作に置かれていた携帯電話が鳴った。
つづく




