「記憶の飽和 23」 | 我ここに在りてここに無し

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青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。







涼子が振り帰り言った言葉に、アキラはただ一言



「うん」



と答えた。



記憶を呼び起こしたアキラは、ゆっくりと立ち上がり涼子の傍へ歩み寄った。






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「お兄ちゃんと花火ができるんだ」



涼子は浴衣の袂(たもと)から小さな絹織の袋を出し、中からガラス玉を取り掌に載せアキラの目の前に差し出した。



「僕がりょうちゃんにあげたガラス玉だね」



「褒めてくれる?お兄ちゃん」



「うん」



「お兄ちゃん、"うん"しか言わないね」



アキラは少し照れた顔で



「僕は君のお兄ちゃんじゃないだろう」





涼子は悪戯な目でアキラの顔を覗きながら




「いいの。今夜だけでもそう呼ばせて」




「うん」





「本当のお兄ちゃんじゃないけど、アキラさんはお兄ちゃんなんだ」



「そうか。分った」




涼子は一瞬顔を伏せ



「アキラさんの本当の妹だったら。。。つらい思いをしなくて良かったのにね。。。」




「えっ?」



「なんでもない。花火花火」




涼子は玄関脇に置いてあった花火を手に取り玄関の外へ出た。



外から涼子の声が聞こえた。



「兄ちゃん。仲居さんに言ってバケツ借りてきて」



「分った」





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アキラは涼子に聞きたかった。



なぜ丘で出会った少年が自分だと分ったのか?




涼子との接点は彼女が幼い頃一度あの丘で出会っただけ。




アキラの人生の中で彼女との接点は、幼い頃丘の上で出会った時以外斉京システム社長秘書として仕事上の電話のやり取りだけ。




自分の過去について車中で話したが、あの丘については何も触れなかった。


それでも彼女は自分の目の前に、記憶を差し出した。



確かな記憶を。



もしも、彼女が自分の古い過去を辿ることができるとすれば、それは父でしかいない。




斉京システムの社長である父、その石川の自宅で父の気持ちを代弁しようとしていた涼子。



しかし、秘書である彼女がなぜそこまで代弁しようとしていたのか不思議に思った。



彼女は何かを知っている。



自分の過去。そして彼女の過去との接点も。



涼子が消えるような声で言った"本当の妹だったら"という言葉の意味を掴みきれないまま、下駄に足を入れアキラは玄関の外に出た。








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仲居に電話しバケツを持ってきてもらった。



アキラは玄関脇にある水道の蛇口から水を出し、バケツに水を注ぎ花火を手にした涼子の前に置いた。


アキラは何か懐かしさを覚え



「小さい頃こんなふうにして花火したな」



と言うと、涼子がポツリと呟いた。



「花火なんかしたことない。誰とも。。。しよう。花火」



涼子は子供のようにはしゃぎながら、袋から花火を取り出した。





アキラは短めの浴衣の裾をはだけながらしゃがみ、花火の先にライターで火を点けた。




涼子は立ったまま、その花火の先に自分の手に持った花火を付けた。






花火は儚くも幼い閃光を放ち、二人の顔を照らした。






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この宿も、そして花火と"お兄ちゃん"と呼ばれる記憶も、たった一つの運命へ辿り着くための序章なのだろうか。





涼子はその運命を知っているのか。




アキラは線香花火の光に、言い知れぬ儚さを感じ取った。



涼子は艶やかな表情で、アキラに視線を流した。





無意味な記憶を辿る旅。



しかし、記憶に無意味などないのかもしれない。




涼子という女性を通し呼び起こされる記憶。



その記憶は思い出と共に無意味な記憶に溶け込んでいった。






記憶に



無意味など。。。



無かった。








つづく