「記憶の飽和 3」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




男と倉沢は個室に入った。


落ち着いた内装に古ぼけた時計が止まったまま柱に掛けられ、囲炉裏が真ん中に据えられていた。





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男と倉沢は既に席についている木村と渡、そして江口に軽く会釈し腰を下ろした。


「お忙しい中お呼びたてして申し訳ない」


木村が言った。

隣に座る渡は何も言わず会釈だけした。


それを見て男は渡に視線を投げ





「久しぶりだな」

「あぁ、そうだな」


それを見て倉沢は


「幼馴染かなんかですか?」


渡が苦笑いしながら

「腐れ縁だよ」

と言った。男は

「ほら、同じこと言うだろう」

と言うと倉沢は

「はぁ」

と少し唇を緩めた。




木村が静かな口調で言った。



「今夜来て頂いたのは弊社の意志を伝えるためでして、少しお時間を頂きたく」

「ちよっと待ってくれ」



男が言った。



秘書の江口は木村の角隣に座り沈黙したままだった。


恐らく今夜の打ち合わせについて誤りなく報告する義務を負っているはず。


「それをたかが部長の私どもに話しをするというのはどうでしょう。むしろ弊社社長の黒沢に直接お話しして頂く方が筋では?」


「石川、まぁ少し聞いてくれ」


渡は始めて男を名字で呼び捨てた。


「うちの会社はいま産業再生機構の支援で再建中なのは知ってるだろう」

「あぁ」

「粉飾決算の実態も公表され、旧経営陣に対して刑事告発と民事上の損害賠償請求を行う旨を明らかにしたばかりだ。売上高や資産の水増しによる粉飾額は予想を遥かに上回るものだった」



やや険悪な雰囲気を察してか倉沢が




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「まず、乾杯しますか?」


と言った。



裏木戸という居酒屋は昔ながらの瓶ビール。


倉沢が瓶ビールの栓を開け始めた。

江口も同様にビールを木村に注いだ。


「石川」


と呼び捨て渡がビールを注いだ。

木村が静かにビールを持ち上げ5人は乾杯した。


飲みながら話をする内容ではなさそうだが、もう石川には今夜の話の筋が見えていた。


メインバンク出身の経理担当旧副社長を主犯格とした粉飾行為に対する事情聴取が始まる中で再建を進めているが、このままでは恐らく斉京システムは規模縮小という現実に遭遇する。そうなると、規模の小さい我社に対し"支援"と二文字を押し付ける。

メインバンクからも見放され、まして大手など相手にするはずもなく、今回我々が始める事業そのものを吸収し、あわよくば会社そのものの合併までこぎつけようという。今夜はそのために下地だと。


そいつが斉京の狙いかもしれない。


石川はそう感じた。


「今夜はこれ以上話を掘り下げるのはよろしくないでしょう」


木村が言った。


「まだ何も話を聞いていないのですが」


倉沢が言った。


江口が口を開いた。


「社長から言伝を預かってきました」


それを聞いて木村と渡はそろって江口を見た。



木村と渡には何も知らされていないことを話すつもりらしい。


石川と倉沢は静かに言葉を待った。






つづく