29. | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。






 四季彩は深い心の色を果てしなく魅せていた。





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 沈黙する時忘れの森は、二人の心に何かを語り掛けていた。





 恒太郎の腕に包まれたまま、アルカナが囁くように言った。






「ここで紫色に輝く光を見たの。。。」






「。。。」






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「この時忘れの森には青く光る孤独な人間の"意志"が溢れているの。でも、私が見た恒太郎の光は紫色だった。それが何を意味するのか分からないまま"意志"だと思い込み、恒太郎の心に寄り添い続けていた。。。」




「僕の"意志"は紫色。。。だった。"意志"ではない」




「恒太郎の心に寄り添い始めてから知ったの。。。」




「僕は何を。。。この森に。。。置き忘れたの?」




「"愛"。。。」



「。。。」





「恒太郎は"愛"をこの森に置き忘れた。恒太郎の心に寄り添えば寄り添うほど、森に置き忘れたものが"意志"ではないと分り始めた。そして。。。私に"意志"が生まれ始め。。。恒太郎の"愛"を抱きしめ始めた。でも。。。その"愛"を恒太郎の心には戻せないの。恒太郎自身が気付かない限り。。。」




「僕の"愛"。。。」




「私はこの森で、"愛"を捨てる人間の孤独に巡り逢ったことが無かった。この時忘れの者の主に生かされ人間が置き忘れた"意志"を見守り、人間の心に返すのが私の役目でしかないの。でも、私は"意志"を持ち。。。"愛"を知ってしまった。。。」




「だから君は。。。」





「"愛"が恒太郎に戻る時、私は温かな"愛"に触れることが出来なくなる。。。」





「アルカナ。。。」





「時忘れの森の主は、私が人間の記憶の中に留まることも"愛"を抱くことも許さない。私は人間の意志を取り戻すための"切り札"でしかない。だから、私は森の主と取引をしたの。。。」







 森は沈黙を強め、二人の会話を聞いているように息を潜めていた。






「君が森の主と取り引きをしたものを取り戻すんだ。。。」





「私が引き換えにしたものは。。。」





「知ってる。。。」




「。。。」




「"夢と約束"。。。人を愛するという君の夢。そして愛を失い森を去るという約束。違う?」




「。。。」




「僕は君を愛することで心に"愛"を取り戻した。でも、僕が"愛"を取り戻しても君という僕の"愛"が消えるなら僕は生きる意味が無いんだ」




「"約束"は取り返せない。。。」







「僕は、取り戻した愛を失うほどお人好しじゃない」







「恒太郎。。。」




「僕の"意志"は"愛"でしかないことを知ったんだ」




 恒太郎はアルカナを抱きしめ、森の空を見上げた。






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「アルカナ。人は空を見上げる。こんな僕でもね」




「。。。」




「子供の頃は空の向こうに夢さえ描いてた。でも、"愛"を取り戻さなければ見上げる空すら見つからない。大人になるほど空の向こうに何も無いって思い込んで夢を描けなくなっていたよ」




「。。。」




「僕は空を見上げ過去を振り返り、ただ。。。ため息をつくだけだった。"意志"に背を向け続けたら"愛"さえ失う。人は見上げた空の向こうに"過去"なんか重ねないんだ。"意志"という"愛"さえあれば。。。」



  





「僕には今"意志"がある。だから空の向こうに明日を見たい。いや、見るんだ」




「やっと。。。言った。言ってくれた。"明日"って言った」




 アルカナは恒太郎の胸の中で泣き崩れた。





「君は未来に描かれた"過去"という"今"を生きているんだ。この森は時忘れの森。なら、君は未来の僕の"愛"と巡り逢ったんだ。そうだね。人は誰も触れることの出来ない約束の無い明日を掴み取ろうともがき苦しんでる。その苦しみから逃れるため"意志"に背を向ける。僕がそうだった。でも人は"愛"までは捨てない。10年以上は無理なんだ。そうだろう?アルカナ。№9はそのためのもの。それでも僕は森に"愛"を置き忘れたまま生きようとしていた。君は僕の"愛"のために"意志"を持ち"愛"を知った。アルカナ。。。君が引き換えにしたものなら僕が取り戻す。。。必ず」




 アルカナが震える声で言った。




「時忘れの森は"意志"を置き忘れた者だけに許された未来が確かにあるの。"今"を変えることができる未来が。恒太郎の未来がこの森のどこかにある。もし、その"未来"を見つけることができるなら未来が描いた過去という"今"を変えることができるはず。でも、それは"愛"じゃない。"意志"なの。。。」





「僕には何も変わらない。同じことさ。僕の"意志"は"愛"でしかない。きっと過去という"今"を僕たちは変えることができる。アルカナ、僕と"未来"を探そう」





「。。。」




「僕には"意志"という"愛"がある。もし僕の"未来"を見つけ掴むことが出来たら、君が森の主との約束で引き換えにした"愛"を僕にくれるね」




 アルカナは潤んだ瞳を伏せもせず、恒太郎の胸に心に留めるかのように寄り添いつづけた。




 吊り橋から川岸へ降りたアルカナはゆっくりとしゃがみ、冷たい川の水に指先を浸した。


 
 
 アルカナの背に寄り添い、川の流れを見続けていた恒太郎は対岸に目を止めた。







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 恒太郎が言った。




「僕は君のそばにいる」




 恒太郎は無言のままアルカナの身体を引き寄せ、深い木々の香りを魅せるアルカナの髪に頬を寄せた。




「君が振り返る過去はここにはもう無い。明日を見るんだ」






 辿りついたこの場所に、永遠に留まる"未来"を二人は探し当てることができるのだろうか。



 そして、時忘れの森の主は二人の戻れぬ心を確かめるかように、明日へと強く風を吹かせ始めていた。



 世界ではない世界を飛び越えてでも、明日を掴もうしている二人。突き抜ける空は夢と約束を描くために明日を降らせているかのようだった。



 人間の限りある命は、愛で満たされるためにある。


 森の空に降る明日を突き抜け夢と約束を掴ために、いま"意志"という"愛"が"未来"を掴もうとしてた。






つづく







 
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