車のライトは、いつしか朝の冷気に薄れながら陽の光に溶け込んでいた。
掴んだ愛を温めるように、二人の身体は寄り添っていた。
誰も知らぬ明日を、二人は知っているかのように進む道の果てをただ見つめていた。
生まれたての笑顔が、互いの瞳に映りながら生きたい。
恒太郎の意志には、淀みなく愛が溢れていた。
恒太郎は掛け違えたボタンをそのままに人生を歩き続けて来た。
いつかなんとかなる。いまだけだと自分に嘯き仕事に没頭し心をごまかし続けていた。
それは、自分の意志に背を向けることだと。。。知っていた。
しかし、彼は何も変えることなく、何も変わることなく笑顔の無い沈黙というルールを自らに課してきた。
奪われたのではない。笑顔を自分で消しているだけだと。。。
カタカナのギクシャクなら、ボタンの掛け違いも直せたかもしれない。
しかし、自分の感情をゼロに近づけ無関心を装うほど、何気ない言葉が負の感情を呼び起こし心は萎えてい行った。
何がそうさせたのか。
きっと些細な歪が重なったのだろう。恒太郎も、いつか理解し合えると高をくくり、過去の自分を振り返ることすら忘れていた。
やがて、仕事以外に心を費やす気力すら失せ、孤独だけが心を癒す生活を送り続けて来いた。
ダッシャンという自宅マンションのドアの孤独な響きだけが。。。結婚生活の証なのかと感じていた。
そんな彼が、今。。。
自分の本当の意志に向き合い、恋よりも愛よりも早くアルカナを抱きしめていた。彼自身、自分でも信じられなほど素直な気持ちだった。
ただ、アルカナの満たされた笑顔を抱きしめ続けていたかった。
一つ限りの時を失いたくなかった。
二人を乗せた車は、夜を抜け朝日に向かい走っていた。
恒太郎が言った。
「アルカナ。。。」
正面を見据え運転する恒太郎の横顔を見つめ
「なに?」
とアルカナが小さく答えた。
「いや。なんでもない」
「どうしたの?」
「本当に君がいるんだね。僕の傍に。。。」
「うん。いるよ。ちゃんとほら。。。」
アルカナはそう言って恒太郎の頬を指先で軽く触れた。
「うん。アルカナが隣にいるんだね。。。」
「私。。。やっぱり。。。どこにも行けなかった。。。」
「もう、どこにも行かないでくれ。。。アルカナ」
その恒太郎の言葉に、アルカナはすぐに返事をしなかった。
一本の道の向こうに、海が見え始めていた。
アルカナが。。。言った。
「うん。いいよ。ずーっと一緒にいるよ。恒太郎といつも一緒にいるもん。私。。。」
途切れた言葉の続きを知っているかのように、恒太郎はアルカナの肩を抱き寄せた。
「いいんだ。。。大丈夫さ。。。僕がいる」
言葉を噛みしめるように恒太郎が言った。
車は海の見える展望台近くの駐車場に静かに滑り込んだ。
陽は、青い空を温かく染め始めていた。
つづく


