恒太郎の車は、ある場所へ向け直走っていた。
言葉の無い電話だった。
それが何を意味するのかは分らなかった。
聞こえたのは、白鳥の鳴き声だった。
時として、人の感性は一瞬言葉を無視するほど飛躍する。
恒太郎は、それを感じていた。
彼の"意志"が示す場所へと。。。
自分の心に背を向け続けてきた10年男。。。起草恒太郎。
今、"意志"に向っていた。
自分がいま何をしようとしているのか。そこに理由などいらなかった。
ただ、会いたい。それだけだった。
そこにアルカナがいるのかさえ、何一つ確かなものは無い。流れる景色は無意識の中に溶け込み"意志"だけが車を走らせていた。
たとえアルカナに会えたとしても、彼女は恒太郎を覚えてはいない。
それを知っている恒太郎は、彼女に話し掛ける言葉も見つからないまま、ただ走り続けた。
彼女の心を取り戻す方法も考えもつかない。
それでも、白鳥の泣き声だけが聞こえた携帯電話に、恒太郎は自分の"意志"を掛けた。
道は、未知のまま彷徨い続ける。
笑顔すら無くした男が、戻れぬ道に印された記憶が鼓動と共に熱く身体に注ぎ始めていた。
恒太郎は自分の"意志"に語りかけていた。
幾度拳を握り、幾度涙を隠し、幾度生きる意味に背を向けてきたんだ。
誰に話すことも無く、自分の意志を隠し続けて来た。これ以上何に背を向けたらいいんだ。
この道の向こうに確かなもなんて何一つ無くたっていい。
それでもいいんだ。
何も分らなくてもいい。確かなものなんて無くてもいい。
それでもいいんだ。
道は未知のまま、空を抜けるように車は走り続けていた。
恒太郎は、"意志"が示す場所に失えぬものがあると感じ始めていた。
自分の"意志"を見つめ触れるのは、いましかないと。
どれほど遠くとも、どれほど儚くとも、どれほど切なくとも、いま自分の"意志"を信じようとしていた。
時がどれほど心を呑み込んでいても。。。
この時。。。一つ限り。。。
夢と現の隙間からアルカナを抱き寄せてみせる。
恒太郎は強くそう思った。
欠けたframeの中に一つ限りの時が、いま。。。
巡り逢おうとしていた。
走れ。。。
恒太郎。。。。
走れ。。。
陽は、西の稜線に隠れ始め、空は深さを増していった。
つづく


