-弾む心?♪-
翌日、部下の書類に目を通していると、錬太郎の頭に昨夜の話題が浮かんできた。
これが錬太郎の不思議なところ?いや、誰にでもあることかもしれないが、いま実行している作業をしながら別のことを考えている。目から入り込む情報は何の意味も持たない。
つまり、眼前から脳の入る情報も、見ようとしなければ意識に入り込まない、認識しないということ。当たり前のようだが、脳とは不思議なものである。
昨夜は独身貴族のような男の集まりだから、あんなふうに“俺流”などと威勢よく言えるが。
こと“男女”の間でああは行かないだろうと思った。
自分一人りなら人生も俺流でいいが、結婚生活に通じるはずはない。
女性が開き直ると、男なんか貧弱なもんさぁ。。。などと自分を振り返っているのか、訳のわからないことを考え、一人苦笑い?。
まぁ、おやじの頭に浮かびそうなことかもしれない。そんなことばかり考えていても埒が明かない。
さぁ、仕事仕事。
と、そこへ
「部長!3番にお電話です!」
と言われ、受話器を取った。
「すみません、お仕事中。。。」
恭子からだった。 錬太郎は
「おぉ。。。」
と言いかけ
「先日失礼致しました。今日のご用件は?」
とゆっくりと丁寧に答えた。
電話の向こうで、恭子はクスクス笑っていた。
「あの、お仕事のご都合が宜しいようでしたら、今週末海を見たいと思って。マスターと一緒にタマさんのお店に行きませんか?メールでも良かったのですが、仕事中の錬太郎さんの声ってどんなのかなって?♪」
悪戯っぽく恭子が言った。
錬太郎は、少し間を置いて
「結構です。詳細は後日またご連絡致します。では、後ほど。」
受話器を置いた。
錬太郎はもう少し声が聞きたかったようだが、あっさり電話を切った。
仕事バカの錬太郎らしい。
それにしても何故、海が見たいなんて?
まぁ、調度いい。
昨夜の旅行の話もしなきゃと思っていたから。
恭子の明るく爽やかな声が聞けた錬太郎は、普段ではあり得ないほど仕事に励んだ?
なんと正直な男だ♪
そういえば、ガリレイやニュートン以前、アリストテレスの哲学に「目的論」というのがあったことを思い出した。
彼が考えた「目的論」、「目的因」とも言うらしいが、物には(人間の行動にも)、それに内在する性質として目的があって、それに応じた振る舞い(運動)をするという考え方だ。
非常に不完全な考え方とも言われるが、今の錬太郎にはピッタリ♪
まさに目的がはっきり行動に現れている。
相対的relative。。。相対性はrelativity。。。絶対はabsoiute。差し詰めrelative?
錬太郎を見る人の基準によっては、まぁ。。。少しは見れる中年?などと。。。なんともはや電話一本でそこまで昇るか。
錬太郎。。。笑ってやって下さい♪
この錬太郎、どこか常識を捨てて生きているところがあり、それが欠点でもあり長所でもある。
何れにせよ、彼の頭の中に浮かぶキーワードが出揃ってきたようだ。
時間、記憶、自己、夢、そして旅。
あとは、タマさんの予定を確認しなきゃ。
社が引けて、錬太郎は自宅近くの定食屋で夕食を済ませ、真っ直ぐ帰宅した。
少し日が長くなり始めていた。
まだ夜風は冷えるが、錬太郎には心地良かった。
不思議なものだ。。。ほんの小さな出来事が心と身体を前向きにさせる。
などと思ったり、夜空の星や月も、どこか自分に微笑んでいるようにさえ感じる。
いやはや。。。まったくもって脳天気、幸せ者の錬太郎であった。
つづく
