「フォリナー22R」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。





-魔王の悪戯-



 マスターは話しを続けた。





「“夢”って言葉は人の心を惹きつけるよね。“旅”もそうだよ。ただ、必ずしも楽しいという感情を伴うとは限らない。色んな想いを抱かせるよ。普通は楽しいとか、ワクワクするといった。。。良い意味で二つの言葉を捉えると思う。そこに素敵な思いを描く。おそらくね」



 錬太郎も頷いた。



「よく言うけど。。。“夢が現実に叶うと夢でなくなる”ってさぁ。やっぱり、夢の手前の現実が一番。。。心が潤うような気がする。私はね♪」





「“旅”って。。。きっと景色とか周りの風景とか、或いは美味しいものを沢山食べたとか、遊べたとか。。。それがワクワク感とは思わないな。逆にそれって、付け足しじゃないかって思う。」




 とマスターは言いながら右手を振って、段五郎に“ホッケの塩焼き”を催促した。




「う。。。ん。なるほど、俺もそう思うな。マスター。。。夢の手前が一番かな~って。さぁ。今の旅って“ホテル”が素敵とか、いい温泉地だとか、素敵なお料理とか、宣伝は素晴らしく具体的でイメージし易い。でも、実際はそこに行く旅の途中の方が思い出として残っているような気がするんだ。素敵な温泉旅館やホテル、前もって情報誌とかで頭に入るからね。そりゃ、実際にその場へ行って見たり聞いたり食べたりは新鮮だと思うけど。でも、その場所に至る、つまり旅の目的地に着くまで。。。現実に想い描いた一場面に出会う手前が一番楽しいように感じる。そこに至るまでの過ごし方とか感情の流れとかさぁ」




 と、焼酎“魔王”が半分入ったコップを口元に運んだ。





 二人は、“夢”も“旅”も現実の手前が最も楽しく心が潤うらしいということで一致していた。すると段五郎が




「俺なんか、夢なんて無かったね。この店を始める前なんか日雇い、スナックのバイト、小料理屋やレストランの皿洗い。なんでもやって食いつないでたさぁ。でも、まったく夢が無いわけじゃなかった。いつか自分の店が持ちたいって。今、こうして小さいながら自分の店が持てて夢が叶うとさぁ、毎日が少し退屈に感じる時がある。やっぱ、夢の手前が一番しんどいけど活き活きしてたと思う。食っていくので精一杯だった時がさぁ。。。まぁ。。。好きな鯛焼きが作れて夢も叶ったけど?♪アハハハッ。。。♪」



 高笑い。魔王をコップに足しながら




「俺も暫く旅に出てないよ。。。旅かぁ。。。いいなーっ♪」




 と段五郎が言った。すると錬太郎は




「うん。子育てもそうだよ。子供が小さい頃は無償の笑顔で、どんなに仕事が辛くても幸にしてくれた。親にしてくれたよ。こんなことって子供じゃなきゃ出来ないよ。思うんだ。。。。きっと3歳までに子供って親孝行終わってるって。あとは親が子供孝行する番だと。そう思って。頑張ってきたはずだけど、その子供孝行も途中のままなんだ。あぁぁ、俺って何やってきたんだろう。。。」




「止めようっと。。。この話」




 。。。と言うと




「あっ、錬ちゃん。。。自分で墓穴掘ってるよ♪いいんだよ。完璧な人間なんていやしないから。よく自分に100点つけるやつがいるけど、そういうやつは0点だよ。人間なんていいかげんなもんだから♪いいかげんじゃなかったら。機械と同じだろう。私も一度結婚はしたけどね。通りすがりなら人情もいいけど毎日は難しい。気をつかい合うってことは確かに大事だけど、お互い傷つくことを覚悟で本当のことを話すことって優しさなんだと思ってた。だけど、それが通じることって難しいのかもね」




 とマスターがぼそぼそと普段話さないことを言った。段五郎は





「俺なんか昔、学校の先生に“自己を追求しろ”って言われたよ。何のことだか分かんなかった。。。んで、自己を追求したのよ♪」




 と言うと



「どうやって?」



 と錬太郎が聞くと




「何をしてきたかじゃなくて、俺の場合は“何をしてこなかったか”を考えた。するとあんまり多すぎて何をしてこなかったかも曖昧になって、結局自己がないの気がついた。俺って何?って。。。アハハ♪」




 と、豪快に笑った。





「よくさぁ“こんなはずじゃなかった”って顔して歩いてる人見る。俺もこんな顔してるのかな~って。」




 錬太郎が言うと




「だから、誰かを当てにするから駄目なんだよ。あてにしたらガッカリするよ!あてにしちゃ駄目!俺みたいに自己も無けりゃ誰も当てにしない。そうすりゃ、こんなもんだで済むんだから♪マスターだってそんなところだろう♪?」




 と、段五郎おやじ。





「そうだな。そんなもんかもな~まぁ私は運がいいんだ。こうして生きてるってことでね♪よく言うけど、苦労すればいつかは実になるって。でも、あれは嘘だよ。だって、そんなに苦労して実になったら、その時の実はもう萎れてるよ。やっぱり、ほどほどに。人間諦めながら年をとっていくもんさぁ。夢を捨てながらね」




 と、少し寂しいマスターの横顔が見えた。




 今夜は魔王の悪戯か、それぞれの想いを吐き出し心を裸にしていった。







つづく




$のんびりと