「The ring on a plate」
ホテルのロビーに一人の女性が立っていた。
手には何も持たずに。
ラウンジのカフェに静かに進み、コーヒーをオーダーした。
窓際の席に一人座り、外に見える葉が落ちた街路樹を眺めた。
珈琲がテーブルに置かれると、彼女は一口珈琲を含んだ。
そして二口目を喉に流した。
瞳を一瞬閉じた。
喉元を通り過ぎる珈琲が、彼女の心に何かを与えたのか、左手の薬指からリングを外した。
静かに、労わるように指から外されたリングは彼女の右手から離れ、カップの中に小さな音を立て吸い込まれた。
そして、彼女は立ち上がりホテルの入口へと歩き始めた。
入口から差し込む朝日と共に木枯らしが彼女を覆った。
だが、彼女の瞳は真っ直ぐと進む道を見つめていた。
自分でも気付かない嘘をつき続けて来た日々を、この一瞬に全て置き去るように、今、明日を歩こうとしている。
どんなに多くの言葉を知り、どんなに気持ちを言葉に託そうとしても、その人でしか分らないもの、その年齢でしか分らないもの、それが愛だとでも言うように、ヒールの音を響かせながら通りへと歩き始めた。
信号待ちで足を止めた彼女は、ビルの隙間に描かれた青い空を見つめ大きく息を吸い込んだ。
温めた肌の温もりと残り香は、彼女の心を残された明日へと穏やかに、そしてあわてさせることなく、素直に不安を消し去っていた。
唇を引き締め、カップに落としたリングと。。。
今、別れを告げた。
進もう。
残された明日を。。。自分らしく。。。
もう、涙は流さない。。。
君は。。。輝いていると。。。空が言った。。。
さあ!。。。歩き出そう。。。