71.Chaos | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。








 チャイムを鳴らした。





 玄関から少しかすれた女性の細い声が聞こえた。








「はい。どちら様ですか?」



「俺。錬太郎だよ」



「あぁ、お前かい。ちょっと待って」








 室内から、チェーンロックを外す音が聞こえた。


 ガチャガチャと少し手間取っているようだった。鈍く油の切れた蝶番の音を通路に響かせながらドアが通路側へ開き始めた。


 錬太郎はノブを握り、自分で握りドアを勢いよく手前に開いた。


 ノブから手を離し、上がり框から踊り場へ片足を出したまま錬太郎を見つめる老女が立っていた。




 錬太郎の背中に隠れるように立っていた美由紀を、錬太郎が紹介しようと横によった。









「彼女は、僕の。。。」









 と言い掛けた時








「私、錬太郎さんの友人の今野美由紀といいます」








 こんな時は、やはり女性の方が明瞭。。。しっかりしているものだ。



 まごつく錬太郎をよそに、美由紀は居間の方へと進んだ。ソファーには老紳士が座っていた。



 美由紀はぺこりと頭を下げた。









「こちら錬太郎のお友達の。。。え。。。何さんでしたっけ。。。」









 と老女が紹介しようとすると、また美由紀が自ら名乗った。








「いつも錬太郎さんにはお世話になっています今井美由紀と申します」



「ほほー。。。こいつがお世話ね。。。ふーん。。。どうぞ、お掛けになって」









 その様子を錬太郎は首を傾げながら見ていた。錬太郎は美由紀をバスルームの手前にある洗面所前まで腕を掴んで引っ張っていった。





 小声で美由紀の横顔に囁いた。







「今、目の前にいる俺の両親と名乗ってる二人だけどさ。。。俺の記憶と少し違うんだよ。。。っていうか。。。記憶から二人とも消えてるんだ。この部屋にくる前まで何度も思い出そうとしたんだ。だけど思い出せなくなってる。俺、どうかなってるのかな?」






 錬太郎の言葉を耳元で聞いた美由紀は錬太郎の顔を目を丸くして見た。







「何を言ってるの?貴方のお父さんとお母さんなんでしょ。だって、和也さんは知っていたから今夜、外で泊まるって。。。言ってたじゃない?錬太郎?大丈夫?」


「それは分ってる。だけどさぁ。。。」






 そう言って、もう一度。。。ソファーに座っている老人を見た。。。



 えっ?あっ。。。あの人。。。彼だ。。。朝。。。会った老紳士だ。。。






「えっ?錬太郎!何言ってるの?誰なの?じゃー、あのお母さんは?誰?」







 洗面所前でヒソヒソ小声で話している様子を見て、錬太郎の母と名乗るらしき人物が洗面所に近寄ってきた。



 
 錬太郎は混乱した。美由紀も同様に頭の中には。。。疑問符”?”で埋め尽くされていた。二人が動揺しているのをよそに老女は







「どうしたの?早く、ほら。。。錬太郎。。。お父さんが話があるって呼んでいるんだから、早く来て頂戴!」






 と、急かすように言った。




 戸惑いを隠せない錬太郎だったが、美由紀は勤めて平静を装いつつ母親らしき老女と会話を始めた。




 錬太郎は、父親らしき男性?。。。いや、今朝。。。出会った人物と斜めに向き合ってソファーに腰を下ろした。






「お前、顔色悪くないか?少し青いぞ?」





 この場合、彼と面識はあるものの、彼が自分の父であるという設定のもとにこの部屋にいるはずなのだ。しかし、彼は朝出会った老紳士そのものであり、錬太郎も両親の記憶がほぼ消えているため、まさに混沌した状況になっている。



 しかし、誰一人。。。騒ぎ立て大声を出すことも無く、この場の雰囲気を壊すことは無かった。



 錬太郎は、とりあえず答えた。




「部屋の照明のせいだろう。。。なんともないよ。何、こんな急に上京して話すことって?」



「急にじゃないだろう。前もって行くことは電話で伝えだろう。それに昨日の昼頃も、今日上京すると和也君にも話ておいたんだぞ?お前に伝わっていないのか?」



 あっ、あいつ。。。俺に言うのを忘れていたんだな。。。まったく。それで、今夜は逃げたんだ。どうも、様子が変たと思ったよ。。。







「おい!錬太郎。。。何一人でブツブツ言ってるんだ」



「いや、なんでもない。ごめん。で、話ってなんだよ?」







 “話って何だよ”と聞く前に、彼は誰なんだ?でも、聞き出せないまま話を合わせる錬太郎。



 美由紀は、老女と和やかに会話が続いているようだった。



 錬太郎の父親らしき男性が話を続けた。





「実はな、お母さんと二人で日本を離れることにしたんだ」



「は、はぁぁぁ。。。。」





 錬太郎は二人が自分の両親だという認識がないためか、彼らが日本を離れると聞いてもピンとこない。当たり前だった。


美由紀は彼の話に、すぐ反応して




「わあ、素敵ですね。。。どちらに行かれるのですか?」





「宇宙だよ」





ガーン~。。。。。。それは日本を離れるじゃなくて地球を離れる。。。だろう!



これだもんなー。。。。。やめてくれ~――――――――――


やっぱり、そうかぁ。。。。


またやってくれてる!!!!もう。。。勘弁してくれよ!






 錬太郎は、この混沌とした状況がクリアーになりつつあるようだった。








「もうーさぁー、やめてくれよ。はやく、ちゃんと元に戻ってくれよ♪早く!」









 美由紀は錬太郎が何を言い始めたのかわからずキョトンとしていた。






 錬太郎の両親を名乗る二人は顔を見合わせ、ニコリとした。




 この混沌とした状況。。。



 新たな旅立ちとなるのだろうか。。。



 この二人の老夫婦はいったい誰?







 
つづく