66. Leisurely♪ | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。






錬太郎はヒマちやんの言葉を聞き首を傾げた。







「ヒマちゃんが言っていた彼って。。。それ。。。俺のこと?」



「”Invisible man”そう。。。錬太郎。。。”目に見えない男”。。。貴方」




「俺は何者なんだ?やっと、会えたって。。。どういうことさ?」








 そう錬太郎がヒマちゃんに問い掛けた瞬間






 錬太郎は自販機の前に立っていた。









「あれっ、ヒマちゃん?。。。まだ。。。話が終わってないぞ!。。。この中途半端な放り出し方。。。やめてないか~もう。。。いつもこれだ。。。」







 それ以来、ヒマちゃんは錬太郎の前に直接姿を見せることは無かった。時々、鉢植えの額紫陽花から挨拶程度に話し掛けてくる程度。錬太郎が話の続きを聞こうとしても、すぐに消えてしまう。


 アッ君は、夏菊瑠葉と二人で暮らしているらしいことは和也から聞かされていた。和也は、彼らと近所の居酒屋で時々食事しているらしかったが、錬太郎の自宅を訪れることは無かった。


 自販機の扉の中で錬太郎にヒマちゃんが見せた世界、そしてヒマちゃんが錬太郎を”Invisible man”であるといったその言葉、そしてやっと会えたと。。。




 錬太郎の頭の中で、幾度も浮かびながらも日々の生活に少しずつ流され始めていた。




 ともあれ、今野美由紀との再婚に向け再スタートを切ったことには違いない。


 ただ、錬太郎の心は自分が創りだした物語で愛した裕子や泉、大勢の人たちとの支え合った記憶が残ったままだった。


 すぐに、心を切り替えるれるほど器用な人間ではない。


 それに、付属品ともいえる和也は、まだ仕事が見つからずプラプラと居候を続けている。




 職場と言えば、ヒマちゃんが二つの世界を一つにしたおかげで人数が増えていた。裕子と泉がヒマちゃんと一つになり消えた以外、他の登場人物は会社と周囲の環境にそれなりに上手く溶け込んでいるように見える。



 錬太郎にとって、それぞれ二つの世界にあった個々の人間関係がどう整合しているかは、不安が無いわけでは無かった。



 もっとも気がかりなのは、自分自身が何者なのかということ。。。だった。


 ヒマちゃんは、自分自身でそれに気づくことを望んでいるのだろうか。。。錬太郎は、心の中では常にそのキーを見つけようしていたことは間違いない。



 アッ君は、この世界で曖昧な”愛”を学ぼうとしている。ヒマちゃんは錬太郎が誰であるかを知った上で額紫陽花を宿にしながら、二人は錬太郎の周囲に見えるようでいて、見えないような。。。なんとなく。。。関係を保っているという風であった。




 どうも、この二人の存在はこれからの錬太郎の運命と切り離して考えることは出来ないらしい。




”Invisible man”とは?。。。自分がなぜ彼だとヒマちゃんは言ったのか?。。。その男が自分だとして。。。なぜヒマちゃんはそれ以後何もそのことについて話そうとしないのか。。。?





 それに、自分が目にしたあの世界について、おおよその察しはつくが、確かなものではなかった。目に映し出された世界について、錬太郎は仮説を立て始めていた。

 
 以前よりも、錬太郎は就寝前にいつもの神話集を繰り返し読むようになっていた。




 虫観るチームと出会った時、彼らは宇宙から来たと言っていた。つまり魂しかないものが、物体に自らを投射し、その彼らが人類を。。。あのアメーバーのような物体から創り始めたというのなら、人間は同一の祖先を持っていることになる。



 猿人でも類人猿でもない。哺乳類の最初の進化とも言える人間でも猿でもない。そんな物体に進化する前の姿が、あのアメーバーということになねのか?





 だとしたら、それは30万年とか50万年とかという話ではなくなるだろう。1000万年も前の世界に存在していたことになる。


 錬太郎の頭の中は、毎夜仮説を繰り返し自らの物語を創造し始めていた。まあ、それでも睡眠不足になるなどということは無く、和也のバカさ加減にも救われながらのんきに日々過ごしていた。




 11月も半ばを過ぎ、マンションから見える道路脇の街路樹の葉も全て落ち、肌寒い風にアスファルトの上を気まぐれに枯葉が舞っていた。


 そんな、師走も近いある日の夜、いつも通り和也とビールを飲んで寛いでいた。すると、自宅の電話がけたたましく鳴った。







「錬太郎。父さんだ!近いうちにそっちに行くから。母さんも一緒だ。よろしく頼む」



「ん?あっ。。。おやじ、何か用事があるのか?」





 と錬太郎が聞き返した時には、電話は切れていた。父は耳が遠かった。。。




 錬太郎の創りだした物語の世界で、父に命を助けられ生きながらえることの出来た錬太郎。しかし、この世界には両親が残ったままだった。


 あわてん坊のヒマちゃんがやりそうなことだと。。。錬太郎はため息をついた。








「おやじとおふくろが来るってさ。。。」







 と和也に言うと







「えっ、じゃ俺寝るとこないじゃん?!」



「お前はその心配かよ。。。まったく。。。呑気なやつだな。。。」



「だってさぁー、俺仕事もまだ決まってないし、男二人、それも中年男子が仲良く二人で暮らしてるなんて。。。ふふ。。。アレかと思われたりして♪」




「お前は。。。もう。。。寝ろよ。。。」





 和也の能天気さには呆れるが、確かに周囲から見れば。。。さもありなん。。。ってとこか。和也は5分と経たないうちに高鼾。




錬太郎はヒマちゃんに語り掛けるため、鉢植えの額紫陽花の前に椅子を置き、缶ビールを手に持ったまま腰掛けたい。





「ヒマちゃん、ねぇ。。。聞いてる?起きてるかい?」




 返事がない。。。



 仕方ないナ。。。俺も寝るか。。。



 錬太郎は椅子から立とうとした。。。



 





 つづく