『Stone and leaf』
池の神様は、池の水面に映る自分の顔を見て、二人の人間がそれが自分であると分るようにしました。
石ころ君と葉っぱさんが一つになった人間に、池の神様は言いました。
「これから人間だけが、自分の映る姿を見て、それが自分だとわかるようにします。そして人間には、“光”と“影”の二つの心を持つようにします。“光”は自分をわかっている自分。もう一つの“影”は、自分の知らない自分です」
池の神様が言葉を続けました。
「“光”はとても暖かく、自分が知っている自分です。そして“影”は自分の知らない、自分の意識が及ばない深いところにある自分です」
二人はキョトンとしていました。
石ころ君と葉っぱさんが一つになった人間は“光”と“影”という二つの自分を持つようになりました。もう一人の森の神様が創った人間も二つの自分を持ちました。
「光が無ければ影も無く、影が無ければ光も無い。君たち二人はどちらかが光となり、どちらかが影となる」
そう言って、池の神様は池の中へと消え、二人の頭の上にのっていたカラスも飛び去りました。
石ころ君と葉っぱさんは、森の神様によって一つの心を持つ人間となったはずでした。しかし、二人の人間の区別をつけるために、池の神様によって自我というものを心に芽生えさせたのです。心に二つの自分が生まれ始めました。
二人の人間は、互いの姿を眺め違っていることに気付き始めました。そして、体格も性格も身体のつくりも。。。
そう、石ころ君と葉っぱさんが一つになった人間は女性でした。もう一人の森の神様が創った人間は男性でした。まったく正反対と思える人間がそこに立っていたのです。
二人は、いつも意見が分かれ喧嘩が絶えませんでした。一人一人の心の中にも光と影があり、それぞれの心の中でも自己の中で葛藤が生まれ始めていました。二人は、互いに持ち合わせないものを欲しいと感じるようになりました。
森の神さまが一番恐れていたことでした。
二人が森の中で暮らしている様子を、森の神様が見に来ました。
石ころ君と葉っぱさんが一つになった人間は手先が器用で、森の枝や草花を使い身を飾りとても身ぎれいに木の皮で服を作り、野山の食べ物を採ってくるのがとても上手で、それを蓄えながら暮らしていました。
もう一人の森の神様が作った人間の身体はとてもたくましいかった。しかし、顔は薄汚れ、髪は伸び放題。手足の爪や皮膚はひび割れ、身にまとうものも無く裸のまま獣を狩りをしながら暮らしていました。
すると、自分に足りないものを持っている互いの存在を羨むようになっていました。
「わたしは二つの心をもつ人間を一番恐れていた。私は二つの身体を一つに創ることはできるが、心の姿までは難しい。やがて影が光を呑みこみ、平和な森が壊れていく。池の神様が光と影を人間の心に与え、人間に自我を芽生えさせた。自我は心の支えにもなるが、時として周囲の者達を悲しくさせる」
と呟きました。
すると池の神様が池から二人の様子を見に出て来ました。森の神様がいることに気付いた池の神様が言いました。
「森の神様。彼らは、光も影も受け入れました。あとは、彼ら人間の仲間がこの森の未来を決めるはず。自分が唯一世界に一人だけ存在する人間だということに気付きはじめています。自分が特別な存在なのだと。但し、まだ互いの足りないところを補う生き方を学べません」
それを聞いた森の神様は池の神様に言いました。
「自分ないものが見え始めた時、影は光を呑み込んでいく。いつか、それぞれの光と影が争いを生む。人間を造るべきではなかったのか。人間と他の生き物が平和に暮す森が壊れていくかもしれない。互いを補い支え合う人間など望むべきでは無かった」
そう悲しそうに言葉を吐きました。それを聞いた池の神様が言いました。
「人間はそれぞれ自我を持つことになりました。彼らは不死のまま生きながらえることは森を、そして世界を壊すことになるかもしれません。どうでしょう。。。森の神様。。。彼らに”死”を与えては?」
森の神様は暫く考えました。
「仕方がない。彼らに死を与えることにしよう」
すると池の神様が言いました。
「彼らに”死”を与える代わりに子孫を残す力をそれぞれ授けては如何でしょう。そうすれば自ずと互いの存在の意味を理解し、補い支え合うのでは?」
森の神様と池の神様は相談して、人間に”死”と”子孫を残す力”を与えました。そして森の神様は二人に名前を授けることにしました。
君はStone。。。硬く強い
君はleaf。。。柔らかくしなやか
ストーンとリーフという名前を授けられ、二人の人間はそれぞれ与えられた力で、互いを支え合い子孫を残しながら人間という仲間を少しずつ増やしていきました。
相補的な関係を保ちながら、男性と女性という性差別も不平等も存在せず、ただ対等に二人は協力しながら生活し始めた。
やがて、二人の間に可愛い娘が生まれ、二人はルーナと名付けました。
森の神様も池の神様も暫く二人を安心して見ていました。森の神様もわが子に乳を授けるリーフを、そしてルーナを穏やかな心で眺めていました。
ルーナはとても美しく成長し、ストーンとリーフもその子を一生懸命育てました。
ある満月の夜、森の神様が三人の様子を見にきました。すると、ルーナの姿が見えません。リーフとストーンはぐっすり眠っています。
森の神様はルーナを探しました。
「あぁ、ルーナよ。。。お前は人間の仲間から。。。再び。。。」
森の神様は失意のまま、ルーナを眺めました。
つづく