60.The walk of the moonlit night | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。







 「じゃ。。。またね。。。私をちゃんと持っていってね」









 そうヒマちゃんは言うと、鉢植えされた額紫陽花になっていた。


 


 錬太郎はその鉢を携え歩き始めた。もう。。。錬太郎は驚かなくなっていた。。。目の前で起こることなど。。。あまり意味をなさないことを知ったからだ。。。




 人は、見えるものに左右されるが、本当は見えぬ心に突き動かされるもの。。。目に見える形あるものなどなんの意味も持たない。。。そう。。。錬太郎は思い始めていた。




 ヒマちゃんが言った言葉。。。錬太郎は自分に問い掛けながら自宅マンションへと向かった。




 一鉢の額紫陽花を携え。。。






 雨も上がり、月が雲の隙間から顔を出し始めていた。





 この月も一つになったのかと。。。錬太郎は不思議な感覚の中を漂うように歩いていた。二つの世界が一つになることなんかあり得るのか?。。。創られた物語の世界ともいえる生活の中で、自分の父は他界した。そして、自分も一度死んでいる。。。そして、生かされた世界。。。




 以前暮らしていた世界への疑問が湧き起こってくる。もし、一つになったとしたら、以前の世界での両親や友人、職場の仲間。。。どう整合するんだ。。。





 そんなことを考えながら。。。月を追い掛けながら。。。いや、月に追い掛けながら歩いていた。







 月は追えども追えども追いつかず、離れようと歩いても静かに後をついてくる。まるで自分の心の中を漂っているかのようだった。。。





 そんなに俺を見つめるなよ。。。俺を照らすなら。。。少しは加減してくれ。。。そんな幸せな気分じゃないんだ。。。と。。。



 月に言いたくなっていた。






 錬太郎の心は、やつれていた。


 二つの世界を記憶し、そして創られた世界と以前の世界、どちらを選ぶかと選択を迫られ、創られた世界を選んだ。創造主(自販機伯爵=アッ君)は。。。それも事実だ。。。選択しろと言った。選んで戻った世界で再開を果たした裕子。。。そして泉は。。。もう一人の創造主。。。ヒマちゃんに融合した。。。




 人を守りたいと、誰一人自分の世界から消し去りたくないと自分を消した錬太郎。。。彷徨い戻る場所を選び、多くの人たちに支え助けられ戻った世界で愛する者たちを失う。。。たとえ擬似的な体験だと自分を納得させようとしても、余りにも心が疲れ。。。やつれ果てている。



 そんな錬太郎を月光が、温かく照らしていた。しかし、その光さえも錬太郎にはまぶしく感じるのだろう。。。




 現実に、こんな体験をするはずもない。自分が怪我や病気をした記憶もない。。。いったい自分はなんなのだろう。。。




 アッ君やヒマちゃんのような創造主の遺伝子が自分のも組み込まれているのだろうか。。。彼らは。。。錬太郎が身の回りにある全ての物に心を感じ取る。。。力が。。。あると言っていた。。。





 確かに敏感と言われればそうかもしれないが、普段の生活はいたって鈍いくらいだ。特に人間の感情を読み取ることについては、錬太郎は五段階で言えは2程度。。。奮闘努力を要するくらい。。。限りなくDに近いC-くらいだろう。




 それでも、こんな自分を救うために多くの人間が支えてくれていた。。。自分が気付くことのないことろで。。。




 人は、自分の身にまとわりつくものを削ぎ落とし、身軽に生活しているように思うこともあるだろう。


 しかし、そこには削ぎ落とすことのできないものがある。。。



 今夜の月を眺め、錬太郎は月に言った。。。




「お前も、一人か。寂しいのか?しかたないな。。。じゃ一緒に歩くか。。。俺の家までさ。これからどうなるか分んないけど。。。もう。。。何が起きても驚く元気がないんだ。。。君は。。。こんな俺を見てどう思う?。。。って。。。答えないよな~まぁ、暫し付き合ってくれよ^^」





 そう。。。独り言を言いながら。。。月と並んで夜道を歩いた。




 暫くして、もとの世界のマンションの前に着いた。


 さてと。。。ここから。。。錬太郎の再スタートになるはず。。。?


 どうなる錬太郎。。。






 月が心配そうに彼を眺めていた。。。



 つづく