52.A thread to haul in | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




 それぞれの人間の。。。その心が呼び寄せる叫びとは。。。時として水を。。。燃える炎に変えるほどの力を持つものだろうか。。。


 それぞれが、引き寄せあい、そして離れ。。。そして。。。また。。。細く切れ切れの糸を手繰り寄せ。。。互いを引き寄せあう。。。



 人は、理由も何もかも知りながら、全てを理解しても尚。。。互いを手繰り寄せる糸を切ろうとはしない。。。時に。。。魔とでさえ契約するほどの心で。。。



 幼いころの記憶など持たぬ者どうしが。。。ただ。。。今を生きるには。。。愛を手繰り寄せる力だけが。。。支えだった。。。

 

 錬太郎が消え一年が経っていた。泉も少し落ち着いて日々の生活に戻りつつあった。泉の父は錬太郎が消えた同じ時刻に病状が急変し他界していた。




 裕子は錬太郎が消えたショックから少しずつ立ち直りつつあった。職場の麻里恵や健太にも支えられ、そして赤提灯のおやじと娘の多香子。どういう訳か?その店を手伝う助さんがいた。




 そう。。。錬太郎と繋がりのあった全ての人間が共に支えあっていた。


 泉は、瑠菜が時々彼女を訪れ様子を看に来ていた。泉はパートの仕事も始め、毎朝もベランダにある植栽に水やりをし、朝食は珈琲を2つのカップに注ぎ、食卓に並べゆっくりと錬太郎の好きだったバターたっぷりのトーストを半分だけ。。。


 それが毎日の朝の始まりだった。



 今朝も、いつものようにベランダにある額紫陽花に水やりをしていた。朝露にキラキラ輝きながら咲いていた。




 昨夜まで降っていた雨も上がり、青空が広がっていた。マンションは少し小高い丘の上にあり、面通りが遠くまで見えていた。



 その時、少し朝もやに見え隠れしながら。。。スーツ姿の一人の男性がゆっくりと歩いていた。




 少し窶れてはいたが、背筋を伸ばしゆっくりと。まるで歩くことを噛み締めるように。人間であることの喜びを。。。そう。。。





 泉は一度、部屋に入りかけたが、もう一度振り返りベランダに出た。近づいてくる。。。その男を静に見つめていた。






 全身がその男性を感じ取るよりも早く、泉は裸足のままマンションの階段を駆け下りていた。





「きっと。。。きっと。。。私の。。。錬。。。太郎」





 泉は繰り返し呟いた。






 マンションを出た。




 そこに男性が静に立っていた。















 少しハニカミながら頭を掻き、唇を薄く開き。。。








「泉。ただいま。。。珈琲。。。一緒に。。。飲もうか。。。約束してたもんな」







 泉は零れる涙を抑え、出来る限りの笑顔で







「遅かったね。珈琲さめちゃうよ。早く入って。ほらっ。。。早く」







 と、錬太郎の手を握った。




 泉は、錬太郎の手が温かいと感じた。




 顔を向けずに手引きし中に入ろうとした。





 その時、錬太郎が言った。







「また、俺のこと錬太郎って呼んでくれよな。。。生きてるから。。。」









 泉の手を引き寄せ互いの温もりを全身で感じ取るように強く抱きしめた。





 泉は全身を錬太郎に預けた。







「錬太郎。。。錬太郎が。。。帰ってきたんだね。。。」






 。。。彼はどこへいっていたのか。。。そして、何を背負いこの世界へと舞戻ってきたのか。。。




星のかけらほどの涙があるなら、今。。。ここに。。。降り注いで欲しい。。。


泉は。。。そう感じながら。。。


錬太郎の体に自分を埋めていた。。。






つづく