37.Try To Remember | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。






 自販機との話が長くなり、退社した時は既に夜9時を過ぎていた。明日は泉の父の手術だった。錬太郎は自宅に着くと先に風呂に入った。


 風呂から上り居間のソファーにゆっくりと腰を降ろした。



 すると、泉が






「あなた、ビール冷えているわよ♪」






 と、錬太郎に背を向けながら言った。






「あぁ。。。うん」






 と言い、冷蔵庫から冷えたビールを出し、食卓の椅子を引いて座ろうとした。




 その時






「泉、少し話があるんだ。いいかな?」







 と、ビールをコップに注ぎながら。。。錬太郎は泉に話し掛けた。錬太郎は最近の出来事をゆつくりと順を追って話はじめていた。


 泉は静かに聴いていた。表情も変えずに、ただ耳を傾けていた。錬太郎が話し終わると泉は







「ねぇ。。。私にもビール頂戴♪」






 と微笑みながら言った。



 錬太郎は自分の表情に戸惑いながら泉のコップを出し、ビールを静かに注いだ。


 泉は一口飲み、小さなため息をついた。






「はぁ。。。ッ」






 錬太郎の背筋はピンとびていた。





「あなたも飲んでよ。。。このビール。。。もう温くなっているわよ♪冷えたの出すわね」





 と冷蔵庫から冷えたビールを取り出しコップに注ぎながら





「ねぇ。。。♪あなたって。。。そばにいても解らない人よね。何年もそばで暮らしているけれど時々何を考えているのか分らない時があるよ。でも、結果オーライなのよね。いつも。。。あぁぁ。。。好きになった私の弱みかな」




 こんな言葉を泉が語り始めるなんて。。。



 錬太郎は少し戸惑っていた。彼女と歩んでき歴史がどんなものなのか。。。創られた物語の中では錬太郎が二人の歩んできた月日を想像することなど容易いことではない。ただ、別れた妻との生活を顧みながら会話に重ね合わせていた。



 人は、何かを想像するとき、きっと誰かを思い出しながら重ね合わせているものかもしれない。。。そう錬太郎は思った。



 役者とは、過去を、その人の歴史を知ることから始まるのかもしれない。泉も私も今はこの物語の役者に過ぎないのか。。。それ以上の感情が二人に無いとは言い切れなかった。



 泉は少し微笑みながら凛として錬太郎を見据え。。。言った。






「いいわよ♪一緒にいってあげる。うん。解った。そのかわり、あなた。。。額紫陽花の花。。。裕子さんのこと。。。絶対に人間のままでいさせてね。でなきゃ、妻の泉が許さないから♪覚悟してね!」






 と、泉はこぼれる涙をぬぐいもせず錬太郎の目をしっかりと見て言い切った。







「泉、すまん。。。」






 錬太郎に他の言葉は見つからなかった。


 女性とは、覚悟を決めたら本当に強いものだと感じた。それに比べ、なんとも情けない。肝心な時に、これしか言葉が浮かばない。。。錬太郎。。。



 二人は食卓のテーブルに座ったまま、壁に掛けた大きな時計の秒針の音だけを聞いていた。






「泉。。。」






 そう錬太郎が言い掛けたとき






「私、お風呂に入る。明日は少し大変になるわね。頑張らなきゃ♪錬太郎!しっかり頼むわよ♪」





 と、笑顔で錬太郎に言葉を投げた。




 錬太郎は居間のソファーに座ったままだた。泉の言葉をかみ締めていた。


 こんなにも、そばにいて自分を理解している人間なんていないだろうな~と。


 ずうずうしいといわれても、錬太郎には。。。ありがとう。。。と。。。すまない。。。という言葉しか。。。無かった。




 錬太郎はアッ君の言葉を思い出していた。彼はなぜ泉に全てを話さなければ契約は無しなどと言ったのだろう。。。なぜなんだ?



 

 その訳を知ることになるのはいつなのか。。。


 その日の夜は、携帯に着信は無かった。久しぶりに夜空の星を眺めながらソファーで眠りについた。



 時は静かに思い出を置き去りに、明日へと。。。運命の糸わ手繰り寄せ始めていた。 





 今夜は、月も歩みを止め運命を共にする者達を照らしているようだった。。。



つづく