32.Another oneself | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。





 錬太郎の頭の中で何かが繋がり、少し息詰まるような感覚に陥っていた。



 いつも錬太郎の心に語り掛けるアッ君とヒマちゃん。


 いや、頭の中で語り掛けてくるもう一人がいることに廉太郎は気づきはじめていたて。それは、もう一人の自分。


 物語の主人公になりつつある自分がいる、しかし、語り掛けるアッ君が自分とは別の存在だと思えなくなっていたのだ。


 戸惑いが大きくなり始めていた。



 あの、自販機の前に立ち「ありがとう」を言って会釈をしてからだ。そう、いつもの自販機に120円を入れた雨の降る夜。しかも、あの時から額紫陽花を見ている。


 それにあの自販機の爽やかな声があわてんぼうのヒマちゃんだった。本当にアッ君とヒマちゃんはウイルスなのか?どうも、彼らの言葉は自分が言っているように錬太郎は感じていた。


 二人は自販機と繋がりがある。なぜだ?自分が創りだした物語の世界だが、本当の自分が今どこに居るのか曖昧になりつつあった。


 その夜、錬太郎は眠れなかった。翌日、出社し昼から休暇を取り病院へ。その途中、昨夜。。。紫陽花裕子から来たメールを見ていた。



。。。部長♪今日一日お疲れ様でした。帰り道の自販機に立ち寄られなかったのですね。額紫陽花ももう少しで終わりますよ。ゆっくりおやすみ下さい。裕子^^
追伸:今週金曜日の夜、お時間取れますか?少しお話したいことがあります。あっ、けっして深刻な話ではおりません。メールでご都合お聞かせ下さい♪。。。



 なぜ自販機そばに咲く額紫陽花のことを知っているのだろう。彼女に話したことはないはずだが。。。錬太郎の頭の中で昨夜と繋がり。。。さらに混乱していた。




 紫陽花裕子は確かに虫観るチームのコーディネーター裕であることは感じていた。


 しかし、まだ自分が創りだす物語という意識も無かった頃の時点で、すでに彼女だけは自分のそばに居たのだ。そして居酒屋のおやじも。。。



 この物語は、意識して創りだしているものじゃないのかもしれない。。。そう、潜在意識が創りだしているのかもしれないと錬太郎は少し考え始めていた。


 すると、全て自分の分身なのか?


 いや、初めにアイス買い損ね、確かに。。。警官に呼び止められて。。。無人島に飛ばされて。。。虫観るチームが自分の脳の中に入って。。。途中現実に戻り。。。そして。。。今。。。自分の創りだした物語の中に居る。。。虫観るチームが。。。より人間を理解するために自分は実験サンプルとしてここにいるはずだ。



 虫観るチーム以外の二人が今は自分に語り掛けているということ。そして、チーム全員を物語に出さなければ彼らが元に戻る可能性が低いということ。



 ん。。。




 錬太郎の頭の情報処理スピードが追いついていかなくなっていた。。。容量オーバーだ。。。




 重い頭を抱えながら病院に着くと、2階の手術棟入り口に錬太郎は向かった。



 多香子と助さんが一緒に長いすに腰掛けていた。







「どう?始まった?」




 


 と錬太郎が小声で聞くと、多香子が








「はい」






 と頷きながら答えた。助さんは一言も話さず多香子に寄り添っていた。




 手術は5時間程で終わり経過も良好であると医師から説明を受け3人は病院を出た。錬太郎は社に書類を忘れたのを思い出し二人を帰し、灯りの消えたオフィスに戻っていた。



 社にある自販機に120を入れ缶コーヒーを一口含んだ。



 ゆっくりと喉に流した。その時だった。




 自販機から声がした。






(錬太郎!おい。。。ここだ。。。錬太郎!正面を見ろよ!いつものアッ君だよ)




 ん。。。?。。。と同時に錬太郎の頭の中の繋がりの糸がほぐれる感覚。。。




 


つづく