29.Come in anything and is in love | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




 
夕方7時、看護師長が




「もう大丈夫だと思いますから、今夜はお引取り下さい。明日またいらして下さい。医師から病状について説明がありますから」




 看護師?。。。ん。。。何だろう。。。どこかで聞いた声だな。。。まぁ、いっかぁ。


錬太郎と多香子は地下鉄へと向かった。




「すみませんでした。会社の方へは戻らなくていいのですか?」



「大丈夫だよ。気にしなくていい。今夜、一人で大丈夫か?」





 娘にでも話すように錬太郎が言うと





「家で夕食だけでも食べていかれませんか?」



「でも、今日は疲れただろう。早く休まなきゃね」



「はい」







と多香子はコクリと頷いて少しふらついてよろけそうになった。




「おい、しっかりしろよ。大丈夫だって先生も言ってただろう」






 軽く肩を抱きかかえながら自宅へと向かった。


 電車を降りたときに赤提灯の常連の会津太助に出会った。彼は錬太郎よりも若く凛々しく、しかもたくましい。


 真面目に馬鹿が付くくらいの好青年である。従って、目の前の光景。。。つまり。。。多香子と錬太郎の寄り添う姿を見て動揺を隠せなかった。


 もう夕暮れ。太助は時々手伝いに来る多香子に好意を持っていた。それは錬太郎も解っていた。だから、なおさらこの状況は都合が悪い。説明しようにも多香子は疲れ切っていて。。。しっかり錬太郎に抱きついている。



 野暮な時間は過ごしたくなかった。錬太郎は





「よっ♪太助ちゃん!一緒に来て、頼む!いいだろう!タカちゃん具合が悪いんだ!」





 あっけに取られ少し戸惑っているようだったが、なんとなく状況を飲み込みつつある太助であった。

 
 三人で居酒屋のおやじの家へ多香子を送り届け、そのまま錬太郎と太助は帰った。帰りしな、錬太郎は今日あった出来事のあらましを太助にゆっくりと歩きながら話して聞かせた。太助は状況を誤解していた自分を少し恥じていた。



 さぁ、太助の恋は?と帰り道、自販機の前で昨夜のできごとが頭から吹っ飛んでいる自分に気付いた錬太郎。


 しばらく赤提灯にいけないな。





(嘘つけ!錬太郎は裕子さんの食事できないのが寂しいんだろう)


「あっ、アッ君だな!そんなことあるか!今、大変なんだからな!」




 と言いつつ内心、少しかった。100円を投入。






<お疲れ様でした♪>






 と爽やかな声。あわてん坊のヒマちゃんだった。






「はい。疲れました」






 と言葉を返す錬太郎だった。




 その日の夜も泉と改めて深く会話をすることもなく眠りに就いた。



 赤提灯のおやじは、心臓冠動脈のバイパス手術を受けることになった。付き添いの必要は無いとのことで多香子も仕事を続けられるようだった。朝と夕方おやじの身の回りの世話をして様子を看ていくことになった。



 赤提灯はもちろん休業。あぁぁ。。。七夕の願い事も何処へやら。






(そういえば、あの時の願い事ってなんだったんだ?錬太郎!答えろ!)




「へへ~ん。。。教えないよ♪アッ君!会話は自販機の前だけにしろよ。。。」




(ん。。。ヒマなんだよ♪)





「仕方ないな。。。」




 錬太郎も居酒屋のおやじさんの様子を看に、昨日に続き帰りは病院へ寄った。



 病院玄関の自動ドアが開いた時







「錬太郎さん!僕も来ました」







 と太助が声を掛けて来た。この声も引っかかるな。。。太助。。。助。。。ははーん。。。そっかぁ。。。虫観るチームの助さんの声だ。ふふ~ん。。。






「よ~っ!見舞いか?それとも多香子さんの心配か?」







 と少し冷やかしながら錬太郎は言葉を返した。






「おやじさんと多香子さん二人のことが心配なんです!」






 と憤慨し真面で錬太郎の顔を見た。







「これは失敬」






 錬太郎はからかうのはよそうと思った。多香子のおやじさんは落ち着いているようで、手術は3日後らしい。


 
 病室を後にし、錬太郎は太助を誘って居酒屋へ入って一杯♪2時間ほど仕事の話や世間話をした後別れた。帰り道、いつもの自販機近くまで来た時、多香子が自販機のそばに立っていた。







「どうしたの?」







 と聞くと








「錬太郎は、今から自販機でしょ!」



「ああっ、そうだよ。優しい声を掛けてもらうのさ~♪タカちゃん大丈夫か?しっかりしろよ!」








 と錬太郎言うと







「そっか。。。じゃ、多香子が声掛けてあげよっか。フフッ。。。私は大丈夫だよ♪」






 笑顔で会釈し立ち去った。この子は強いと思った。少しは元気が出てきたようだった。


 
 錬太郎は西日に背中を向けながら家路に着いた。玄関のドアを開けると泉が立っていた。今日、実家の父が来ていると言う。







「何かあったのか?」






 と泉に聞くと






「それがね。。。」






 なにやらありそうだった。錬太郎の一日は長すぎるくらいだが。。。災難は重なるのか?








(おっと、スラックスのチャックが半開きだぞ!錬太郎しっかりしろよ)




「えっ?あちゃー」






 あっ、そんなことより泉の話ってなんだろう。泉の父という設定は錬太郎の頭の中には無かったし、虫観るチームの中にも。。。俺。。。自分で泉の家族や過去の生活を創りだしてるのか?



 錬太郎は、不思議な感覚に包まれていた。



 

 玄関から居間の方を覗き込むと、泉の父と思われる人物がソファーに腰掛けていた。








「泉、どうかしたの?おとうさん?」







「前から心臓が悪いって言ってたでしょ。田舎の病院では治療が難しいみたいで、あなたの会社近くの、ほら。。。車で20分くらいで着く医学部付属病院。あそこに紹介されて入院することになったのよ。多分手術することになるって」







 ありゃありゃ。。。一度に二人も知り合いと親族が同じ病院に。





 錬太郎は少し驚いた。妻の泉は以外に平静で、なるようにしかならないと思っている様子だった。泉のお父さんも表情は穏やかで笑顔をこちらに向けて下さっていた。




 赤提灯の多香子のおやじさんと、そして泉お父さんの手術日。。。いつになるのか。。。重ならなきゃいいけどな。などと心配をしながらベットに入った。ベットサイドの灯りを消し眠りに入り込もうとしたとき、泉が。。。






「あなた、この間。。。そう夕方雨が降ってた時よ。紫陽花柄の傘持ってきてたでしょう」



「ん?あっ、あぁぁぁ。。。」

 




 ギクッ!






(ホラ。。。きたぞ!きたぞ!。。。やっぱり見てるんだな。。。泉は♪。。。錬太郎!大丈夫か?)




「うるさいな。何も悪いことはしていないぞ!」




「ちゃんと返したの?借りたらお返しなきゃ。どうせ会社の方か誰かに借りたんでしょ!部下の方だったらお昼くらいご馳走してあげなさいよ♪」




「ああ、解った」




(ほっ!錬太郎。。。セーフ♪だな)



「だから、何でセーフなんだ?傘借りただけだし」





(七夕の願い事はいったいなんだっんだよ?教えろよ♪)



「あぁぁぁ、うるさいな。。。寝ろよ!」




(これだからな。。。おやじは。。。ハハー♪)




「いいから。。。もう、寝ろよ!アッ君。。。おやすみ」





 裕子。。。泉。。。多香子。。。太助。。。虫観るチームが少しずつ錬太郎の物語に揃い始めていた。。。看護師の名前が分らなかったが。。。おそらく。。。きっと。。。彼女も。。。



 つづく