仕事を終え、おやじは居酒屋”安兵衛”に向かった。カウンタテーブルの奥に野月浩輔が座っていた。少し俯きながらビールを飲んでいた。
「よっ!待ったか」
とおやじが声を掛けると
「部長、すみません。お時間割いて頂いて」
「で、何だ。。。その。。。話って?」
とおやじが聞いた。
「部長。。。俺、会社辞めようと思ってるんです」
するとおやじは少し間を置いて
「いいさ♪。。。お前の人生だ」
おやじは理由も聞かない。浩輔が言った
「理由、聞かないんですか?」
と言うと
「理由なんか聞いてどうする、俺に話すってことは。。。もう決めているんだろう。人間てのは、人に相談する時は。。。たいてい自分の心で決めてるんだよ。いいじゃないか。。。」
とおやじはさらりと言葉を返した。
「部長っていつもボーッとしてるけど、みんなのこと見ているんですね。俺、生きる意味って何だろうって。毎日毎日がむしゃらに仕事して、成果を挙げ昇進し、結婚し子供が生まれ、それはそれで幸せなんだろうと思う。けど、何のために生きているんだろうって。。。最近。。。思い始めてて」
するとおやじは
「そっかぁ、俺も考えた時期があったよ。でも、思ったよ。お前さぁ、何のために生きるかって。。。考えても答えなんか出ないと思うよ。人って死に向かって生きているだろう!その死に至るまでに生きる目的を探している時間なんかあっという間だぜ!だから、何のために生きてるかじゃなくて、最後に。。。生きてて良かったって思えるように毎日精一杯生きるしかないんだよ」
妙にもっとらしく聞こえる。
「お前が今の仕事を辞めて何をするかは解らないけど、精一杯生きてみたいって思ってるからだろう。浩輔、だから理由なんか聞かなくたって、どんな道に進んだっていいんだよ」
「部長、俺。。。皆に迷惑掛かるような気がして。今、担当している企画もまだあるし。。。いつ辞めるかは。。。ただ、やりたいことは決まってるんです」
と言うと、おやじは
「お前もお人よしだな、心配すんな。もたもたしてると気持ちが萎えるぞ。人間なんて気が変わりやすい生き物だからな。期を逃すな!いいな!」
浩輔はビールをグビッと喉に流し込み
「はい!俺、ラーメン屋をやりたいんです。屋台のラーメン屋です」
おやじは目を丸くした。
「おう、そうか。。。日本一美味いラーメン屋になれよ。店を出す前に俺に試食させてからな!いいな!」
と二人は高笑いしながらジョッキで乾杯した。
1時間半くらい過ぎて、おやじと浩輔は店から出て別れた。おやじは自宅へと向かった。マンションのドアを開けネクタイを外し洗面所で嗽をし、手を洗っていると電話が鳴った。
「はい。どちらさまですか?。。。おぅ!。。。和也。。。どうした?」
すると電話の向こうで
「なんだは無いだろう。俺、今からお前のマンションに行くから。今日から頼む!」
「えっ!!!待て待て、来る前に連絡しろよ!お前はいつもそうだな。。。もう。。。わかった。。。場所は知ってるのか?」
「あっ、うん。。。じゃ。。。待ってるから↓↓↓」
おやじは夕飯の材料が無いのに気が付いた。近くのスーパーに買出しに出ようとした。その時、ピンポー。。。とチャイムが鳴った。早いな。。。もう着いたのかよ。。。今、電話してきて。。。うそだろう?おい。
と、ブツブツ言いながら玄関を開けた。すると、そこに立っていたのは
「美由紀。。。」
美由紀は買物袋を二つぶら下げ
「はぁ~。。。重かった。夕食の買出ししてきたおー♪」
と、ごく自然にキッチンへと向かった。おやじはキョトンとしていた。あぁ。。。これは。。。でも。。。おやじの頭の中では美由紀と静かな夜を過ごす妄想を抱いたが。。。一瞬にして。。。それは消えた。そうだ。。。和也も来る!!!
待て、俺は独身だ。でも彼女がいても可笑しくはない。しかしだ、和也はおしゃべりだから、すぐに田舎のおやじの耳に入る。。。すると、おやじが上京。。。ん。。。テンポが速すぎる。もっとゆっくりと。。。あぁぁぁぁぁぁ。。。でも、考えても仕方ないか。
そうこうしているうちに美由紀は。。。
「ねぇ。。。調味料とかないの?なんにも?いくら独身だからって。。。これじゃ。。。私。。。近くのスーパー行って買ってくるね♪」
と言い部屋出た。
ピンポーとチャイム?メタボなんか気にせず思いっきりタルンタルンのお腹を揺らした和也が立っていた。汗だくの顔と身体。。。
「よっ♪今日からよろしくな。。。錬太郎ちゃん♪」
旅行用のバックを二つ無造作に床に放り投げ
「トイレ。。。トイレ。。。貸してくれ、我慢してたんだ」
さてさて、おやじの頭の中には虫観るチーム、そして美由紀。。。和也。。。
この先。。。どうなることやら。。。ははー。。。シーらない。。。
つづく