他愛もない話が続き、明日の仕事も考え、そろそろお開きの時間だ。
もう、夜の10時を過ぎている。
店の前で解散し、浩輔と聡子、洋子はもう少し夜を楽しむため、今夜合流した女性群と共に次の店へと向かった。
おやじは
「俺は帰るから。じゃ」
このまま帰っていいのか?
おやじは、心で呟いていた。
その時、おやじの頭の中から虫観るチームとは別の、聞きなれない声をかすかに聞いた。
この声の主は一人では無かった。この声の主が後で大変な事態を引き起こすことになるとは、おやじも、虫観るチームも知らない。
「おやじさん。。。夢見る乙女の夢です♪ホイッ♪」
「あっ、はい。なんでしょう」
「あの、このまま帰ってよろしいのでしょうか?」
「解りきったことを聞かないでくれよ。。。」
と。
「さぁ、なんとかしないと。夢で終わりますよ♪おやじさん。。。ホイッ♪」
おやじは他のみんなと別れ、もちろん今野美由紀とも別れた。
まだ10過ぎか~。
少し雨が降り出した。
おやじは、昔彼女と二人でよく足を運んだビルの路地裏にある小さなカフェバーに足を向けた。
本当に飾り気のない店。
おやじは新入社員の時か足繁く通った店だった。転勤も続いていたため、もう7~8年は来ていない。雨は静かに降り続いていた。
おやじは店の前で立ち止まり、重く錆びたノブを引き下げ静にドアを開けた。暖かい灯りが照らすカウンターに目を向けると、無精ひげのマスターが
「よう~錬ちゃん。何年ぶり?元気?顔出さなきゃ忘れちゃうよ♪今夜は珍しい客ばかりだな」
とマスターが苦笑いしながら奥のカウンターへ顔を一二度振った。
美由紀だった。
気持ちを抑えながら奥へ進んだ。
おやじは、心が少し弾んでいるのを感じた。その時、頭の中から”やったね、最高!”。。。”そうだね。。。ん。。。いい感じ”と別々の声が聞こえた。
やはり、この声は聴いたことがない。。。り虫観るチームじゃない。
マスターは
「奥から詰めてね。今夜は、あと客入らないから」
と・・・。
客がいないなら詰めることないのにとおやじは思った。
DIANA KRALLのTHE LOOK OF LOVEがゆっくりと流れていた。
少し心に潤いが戻り始めていた。
「マスター、相変わらず好きだね。マッコイタイナー掛けてよ♪」
おやじが言った。
すると美由紀が、おやじの顔も見ずカウンター正面の飾り棚に立て掛けてある埃を被ったマッコイタイナーのアルバムを見ながら
「錬太郎。。。遅かったな~。また遅刻」
と小声で呟いた。。。
互いを愛し、時に激しく狂おしいほどの時を過ごしていたあの頃へ、一瞬にタイムスリップしていた。
タイムスリップ。。。
その時。。。また聞きなれない声が頭の中で囁きはじめていた。
雨が、また強く降り始めた。。。
三人は言葉もなく。。。空間を漂う曲を静かに聞きはじめていた。。。
つづく