「アッキーとセッチーは、幼馴染なの?」
「そう。昔から喧嘩ばかりしているのよ。千恵美ちゃん、なんとかならない?♪」
「わかんなぁーい。いいじゃん。喧嘩する相手がいるんだもん。千恵美なんか家族もバラバラだしさぁ、彼氏とも別れちゃったし、アパートに帰っても誰も話す相手なんかないんだよ。ねぇ、たまに千恵美も夕食たべに来ていい?ママ?♪」
「あらっ、何言ってるの。この間介抱してあげたでしょ。もう、娘みたいなものよ。いつでもいらっしゃい♪」
「嬉しい。ママって優しいなー♪大好き♪あれ?でも、アッキーとセッチーは結婚してるから奥さんも子供もいるんでしょ?何で此処に毎日来て、晩御飯食べてるの?ねぇ?何で?」
二人は顔を見合わせた。そして、同時にうな垂れた。
「この二人はねぇ、反抗期なのよ。んー、そうねぇ。。。大人になりきれなかった大人かな?♪フフッ♪」
女将は笑った。最近、二人は妙に息が合っている。加納幸子の一件があってからだが、ある意味、憧れの彼女に共通の思いがあり、そこに仲間意識?連帯感と言えるものがあるのは確かかもしれない。
それに、二人とも家族から見放されているようなもの。他に行き場が無いのも事実だし、女将に甘えるしかないのだ。女将にしてみれば、大きな悪ガキ?不良中年?二人に毎夕飯を食べさせているようなもの。
「ふーん。なんかよくわかんないけど。まっ、いっかー♪」
「二人ともね、大昔の彼女のことでいまだに喧嘩してるのよ。可笑しいでしょ♪とっくに“のぼせ”は終わってるはずなのにねー♪」
「こんなに素敵なママが目の前にいるのに、昔の彼女のことで喧嘩してたの?パッカみたい。千恵美なんか別れた彼のことなんか忘れたよ♪元彼!すっきりしてる。ねちっこい奴は嫌われるからね!スッチーとセッチー!分かった?」
「あっ、はい」
女将が二人いるような感じだ。
男と女が結婚するときは互いにのぼせている。しかし、結婚生活はのぼせている時期が数年?だいたい3年くらいで終わり、そこからが本当の夫婦関係が始まるようだ。
女将が言うように、彰も誠司も思い出の君にいまだのぼせているとは考えられないし、二人が喧嘩する理由などとうに薄れどうでも良いことなのかもしれない。互いをよく知る最も身近な他人であり、適度に干渉し合える相手に過ぎない。ただそれだけなのかもしれない。
のぼせが終わり、夫婦としての人間関係が始まった頃から気持ちのずれが目立ちはじめ、特に理由などなく離婚するか、或いは諦めるべきところには目を瞑り、良いところが一つでもあればそれだけを頼りに良しとし結婚生活を続けるかはそれぞれ異なるだろう。
互いに多くは期待しないまでも、少しでも干渉し合えるうちは夫婦としての契約は継続可能だろう。
確かに、簡単に結論など出ないし、離婚し新たに結婚しても同じように何度も離婚を繰り返す場合だってある。しかし、一度も人にのぼせる体験をしたことのない人間とはどんなものだろう?
男女の間に限らず他の人間との社会生活に於いても、憧れと似たような“のぼせ”体験は一度くらいあるはずだ。
程度の差こそあれ“のぼせ”は歳を取っても無くならない。それだけは言えると最近彰は感じている。誠司の“のぼせ”だけは学習されない。本当に反省のない“のぼせ”なのだ。この場合は、本人に一番問題がある。
千恵美が焼きうどんを食べ終わり、少し飲み始めていた。
「アッキーとセッチーは、今誰かに恋してないの?♪」
「ん?」
彰と誠司は、千恵美を見た。
女将は顔を伏せ、肩で笑った。
そして、彰はコップを落としそうになった。
引き戸が揺れ、少し風が吹き始めていた。
つづく