66.「ネテル」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




 男の子の声は肉声?耳から聞こえる。なぜ?君は?と聞き返すより早く、錬太郎は男の子を背中に乗せ光をまとい、地面から吹き上げる風に乗り階段を飛ぶように駆け上がっていった。

 錬太郎は自分がトラの姿になっていることなど気にもならなかった。

 この世界では取るに足らないこと。何が起きても見えるものに囚われず進むしかないと、素直に子供の言葉に従った錬太郎だった。迷うことなど何も無かった。男の子を背に乗せ、階段を疾風のごとく空高く聳える塔の上を目指し、雲の上を目指し、一心に駆け上っていった。

 自分でも信じがたい力。いつもは駅の階段を、息を切らせながら上る中年男子!その錬太郎には信じがたいものだった。

 錬太郎は雲の中に塔が隠れる高さまで登りつめていた。すると男の子が駆け上がる錬太郎に言った。

「僕はトトの使い。いつも貴方のそばにいる。海と水に関わる(貝)。。。山と火(鷲石)。。。草(燕草)。。。石(石燕)。。。そして木(流木)。。。この7匹の神を解き放って。見える世界の住人はみんな子供。記憶の揺らぎは。。。全てを無にし世界を眠らせてしまう」

「神が7匹?神様なんだから7匹はおかしいだろう?眠らせてしまうって?無にするってどういうことだ?なぜ俺なんだ?」

 と錬太郎は聞いた。

 すると子供が言った。

「あなたの母と会った。あなたの運命も話した。万神殿で。恭子と呼ぶ、あなたのいる見える世界の女性の父もウルシュだった。彼は娘の記憶の中に戻った。それで記憶の揺らぎが少し和らいだ。あなたは彼の代わりになると決めた。ウルシュは一人。貴方がウルシュになる。」

「でも、なぜ日本人がウルシュに?君たちは何を恐れているの?」

 と小さな子供に聞いた。

「あなたも含め7匹の神がいる。あたなはその一人。まだ、神の自我にめざめてはならない。肌の色、動物、植物、姿形は無意味。ここは見えない世界。記憶の世界。揺らぎはこの見えない世界を暗闇にする。見える世界の7つの神を開放し見える世界を救わなければこの世界も滅ぶ」

「さあ、雲に、空に、鳥に、話しかけてみて。聞こえる?声が?人間が忘れた掛けた心を取り戻すなら言葉が聞こえるはず。今のあなたになら聞こえるはず」

 と子供は錬太郎の鬣を掴み頬を寄せ小さな灰まみれの真っ黒な手で身体を撫でながら言った。

 撫でられるたびに、心と体は風と光りに溶け込んでいくように感じられた。

「君の名前は?滅ぶ?開放って?これからどうすればいいんだ?」

 と錬太郎が子供に言うと「ウルシュの力を見せて。見える世界で待っている人がいるはず。さあ、扉を開いて戻る。僕の名前はネテル」と言った。

 力?あっ、雨と雷の神とか言ってたな。でも、どうやるんだ?扉なんて何も。。。

 すると、雲の向こうに古い石組みの扉が見えた。

「はやく!オシリスと叫んで!」

 と言われ連太郎はトラの姿のまま大きく叫んだ。


「オシリス!」

 雷鳴が轟き雨と雷がなり門の扉がゆっくりと開きはじめた。

 七色の光が扉の隙間から二人を白く輝かせ、トラは門に向け走り飛び込んだ。


つづく