65.「空高く」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




その古びた厚い本には、こう書かれてあった。


「おまえがここに書かれるウルシュをするならば、私は世界を保存する。私はウルシュを見た世界と見ない世界を見張る者にした。私は時の神トト。私はウルシュを雨と稲妻の神にもした。その力もて心に自由な時を与え、見える世界に戻り7匹の神を放て。それをするなら、太陽と月は1日を中心に回るだろう。神が放たれないとき沈まぬ月と星々と太陽が見える世界を支配する。見えない世界は闇に包まれる。過去は全て消え去り、見える世界は子供に戻る。心の自由な時を与えよ。見える世界を保存する全ての心を解き放て」

 錬太郎は、羊飼いが言った言葉と、この本に書かれてある言葉が僅かに重なり始めていた。その本に書かれていた言語はペルシャ語だった。しかし、なぜそれを錬太郎が読めたのか不思議だった。

 本は熱を帯びていた。何かが変わろうとしている。そんな言い知れぬ予感のようなものを感じ始めていた。

 羊飼いの男が言ったメモ書きを取り出した。

 「最初の時。番人として、この世界と見える世界の仲立ちをせよ。
 そして、見える世界の最後を救え。
 太陽と月は左から右へ回り、すべての星も同じ。
 この丘は光り輝き夜の闇を圧倒し、夜は昼と区別がなく、
 昼と夜を合わせれば住む者の一年と同じ長さになるだろう。
 星や月、太陽は一年に一度だけ昇り、また沈む。
 その時、夜明けはいつまでも続き、子供たちは眠りにつく」

 本には、羊飼いと同じ言葉が並んでいた。

 錬太郎が言葉を読み終え本を閉じようとした。そのとき、本に差し込んでいたGEORGE STUBBS のトラの絵が空に舞い上がり一瞬にして光と共に消えた。すると、手に持っていたはずの本が地面に落ち、錬太郎は獣となっていた。

 自我は保たれたまま、外見はGEORGE STUBBS が描いたトラになっていた。

 そこへ、一人の小さな男の子が塔の影から現れた。そして、錬太郎に音も無く近寄り、彼の背に小さな灰まみれの真っ黒な手を当てた。

 麻布をまとい粗末な服装で裸足だった子供は、錬太郎の背中にヒョイッと跨った。


 そして言った。

「行こう。あの階段を雲の上まで登って。僕を乗せて。早く登らないと見える世界の扉が閉まっちゃうよ!」

 と言った。

 
 雷雲の空の遥か上を指差す少年。この子は。。。



つづく