零れた灰に触れた恭子。。。一つの風が通り過ぎ。。。そして。。。
恭子は波打ち際に立っていた。。。静かな凪の夕暮れの海。。。恭子は辺りを見た。まだ自分がどこにいるのか理解でなかった。
ゆっくりと周りを見渡した。。。背中側に松林が広がっていた。ふと。。自分の手に握られている貝に気付いた。。。
「子安貝。。。」
と呟き。。。月が波間に幾重にも映し出されて水平線彼方を見つめた。
三日月のようなカーブを描いた砂浜。。。頭上には。。。満天の星空が広がり。。。月と共に眩い光りを描いているかのような世界。。。
恭子は右手に握られた子安貝を耳に近づけ穏やかな潮風を流し込み。。。そう。。。遠い古里の海に残してきた記憶に。。。たどり着こうとしていた。。。
穏やかな風が恭子の髪を僅かに揺らしていた。詩人がいるのなら。。。今の自分をどう表現するのだろう。。。と。。。海を見つめる恭子。
その時。。。恭子の両肩に。。。そっと触れる温かい手のひらを感じ。。。振り向いた。。。
「恭子。。。元気かい?」
と低く静かな声で語りかける男性。。。
恭子は。。。ゆっくりと。。。振り返った。両目を大きく見開き。。。男性を見つめた。
男性は
「ずっと。。。待っていたよ。。。恭子。。。ごめんな。。。恭子。。。寂しかったかい?。。。」。。。そう言いながら。。。恭子の肩を引き寄せた。恭子の身体は小刻みに振るえていた。。。
恭子は彼の胸に顔を埋め。。。あふれ出す涙を。。。心の涙を。。。流し続けた。言葉は無く。。。時が流れた。。。この声。。。臭い。。。あぁ。。。記憶が蘇る。。。
彼が言った。。。
「ごめんよ。。。恭子。。。ごめんよ。。。ごめんよ。。。」。。。
彼は恭子の髪を撫でながら。。。強く抱きしめていた。。。繰り返す言葉は。。。同じだった。
恭子が自分という存在を意識し始めて。。。初めて辿りつた古里だった。。。心と身体が安らいでいく。。。癒されていく。。。
大きな声を出し。。。
「おとうさん。。。おとうさん。。。お父さんだよね。。。恭子のおとうさんだよね。。。ホントに恭子のお父さんだよね。。。どこに行ってたの?。。。もう居なくならないで。。。離れちゃやだよ。。。恭子のお父さんなんだから。。。お父さん。。。お父さん。。。」
。。。呼ぶことの無かった“おとうさん”という言葉を、恭子は声が枯れるほど繰り返し呼び続け。。。泣きじゃくっていた。彼は強く。。。抱きしめ続けていた。
「もうどこへもいっちゃ。。。やだ。。。帰ろうよ。。。一緒に。。。お父さん。。。。」
この流れ出した時が。。。いつまでも。。。続かないことを。。。恭子は感じ取っていた。。。止まって。。。もう一度。。。心の時よ。。。
月と海は、そして星たちは。。。静に二人を見守っていた。。。とても単純で純粋な世界が広がっていた。。。
そして。。。彼が静にゆっくりと。。。語りはじめた。。。
つづく