37.「月夜に集う」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。



 
 錬太郎は“心が時を決める”という言葉の意味を、恭子の肩を包みながら、今。。。深く感じ取っていた。こんな時を感じることなどなかった。。。彼女の温もりに心が癒されていく。。。できるなら。。。このまま時が。。。止まって欲しい。。。そう思った。 

 低い雲が少しだけお月様に目隠しをしてくれていた。雲の流れが。。。月の明かりを包むように。。。二人は頬を離し掛けた。。。恭子は錬太郎の胸に涙を残しながら。。。そしてフォリナーへと。。。歩き始めた。二人の足音が夜道に響き渡っていた。錬太郎は彼女に合わせ。。。ゆっくりと。。。ゆっくりと。。。息を合わせるように。。。

 恭子は忘れかけていた時間を取り戻すことに戸惑いを感じながらも。。。もう。。。後戻りはできないと。。。感じていた。できるなら。。。今。。。ここで錬太郎の言葉を。。。一つだけ聞きたかったと。。。それは今夜のお月だけが知っているのか。。。二人は言葉を閉じ温もりだけを頼りに心を確かめ合っていた。

 二人がフォリナーに着いたのは夜の9時を過ぎていた。店内に入ると、すでに段五郎が“泳げた鯛焼き君”の歌をアカペラで歌っていた。ホカホカの鯛焼きを。。。フォリナーの月光族三銃士。。。恭子。。。そして段五郎で頬張った。まあ。。。お酒の前に鯛焼きとは。。。いささかアンバランスだが。。。いつも決まって何か始まる時は。。。こんな感じだった。月光族三銃士とは。。。不思議な連中である。もちろん。。。段五郎も忘れてはならない♪

 「いよいよ明日だね!錬太郎さん♪旅にでるなんて。。。なんか久しぶりだよ。。。俺なんか緊張してるよ。。。あっ。。。でもワクワク感の方が強いけどな!」

と段五郎が言うと

「あらあら。。。今日の鯛焼きの焼き具合。。。少し硬め?」

 とタマさんが。

「そうかな?ん。。。少し硬い?興奮すると。。。どうもいけねぇ。。。気持ちが高ぶってるせいだ」

 と段五郎は頭を掻いた。

「ところで。。。マスター。。。明日の夕方出発だけど。どうだろう。。。俺のポンコツ車で旅に出るってのは?」

 と錬太郎が言うと「別にかまわないけど。。。あの車走るの?それに5人だよ?窮屈じゃないかな。。。?」

 とマスターは少し不安げに言った。タマさんも

「ん。。。行き先はどこでもいいけどね。。。旅の途中はのんびり行きたいのよね。。。♪」

 と同調した。段五郎は会話がまったく耳に入っていないかのように、ビールを美味そうにグビグビと喉に流し込んでいる。

 「じゃ。。。俺、レンタカー借りるよ。キャンピングカーがいいね。横になってさぁ。。。タマさんも楽チンだよ。。。きっと♪。。。知り合いがいるから。。。それでいいよね♪」

 と言うと

「ラジャー♪」

 とタマさん。。。例のごとく親指を立てた。恭子は、彼らの会話の様子を微笑ましく眺め聞いていた。段五郎も、話を聞いていないにも関わらず親指を立てていた。まったく暢気な段五郎。

 錬太郎は恭子の父。。。について。。。まだ話をするのは控えようと思った。ただ、知り得たキーワードだけ。。。彼らに話してみようと。

 さて。。。今夜はどんな話が彼らから聞けるのか?。。。段五郎が。。。こんなことを言い始めた。。。

 「最近。。。歳をとってきてさぁ。。。死ぬのも怖いけどさぁ。。。思い出してみると。。。生まれてくる時も怖かった気がするんだ。。。」

「何言ってるの?段ちゃん?」

 とマスターが言った。

 おやおや。。。段五郎。。。何か話題が記憶から遠ざかるようでいて。。。以外にストレートに思考の旅の本質へと導いているような予感がしていた。。。

つづく