23.「弾む心?♪」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。





 翌日、部下の書類に目を通していると、錬太郎の頭に昨夜の話題が浮かんできた。これが錬太郎の不思議なところ?いや、誰にでもあることかもしれないが、いま実行している作業をしながら別のことを考えている。目から入り込む情報は何の意味も持たない。つまり、眼前から脳の入る情報も、見ようとしなければ意識に入り込まない、認識しないということ。当たり前のようだが、脳とは不思議なものである。

昨夜は独身貴族のような男の集まりだから、あんなふうに“俺流”などと威勢よく言えるが。。。こと“男女”の間で。。。ああは行かないだろうと思った。自分独りなら人生も俺流でいいが。。。結婚生活では通じるはずもない。

 女性が開き直ると。。。これほど強いものはない。。。男なんか貧弱なもんさぁ。。。などと自分を振り返っているのか、訳のわからないことを。。。考え、一人苦笑い?。まぁ。。。おやじの頭に浮かびそうなことかもしれない。そんなことばかり考えていても埒が明かない。。。さぁ、仕事仕事。。。と思っていると、そこへ「部長!3番にお電話です!」と言われ、受話器を取った。  

「すみません、お仕事中。。。」

 恭子からだった。 錬太郎は

「おぉ。。。」

 と言いかけ

「先日失礼致しました。今日のご用件は?。。。」

 とゆっくりと丁寧に答えた。電話の向こうで恭子はクスクス笑っていた。

「あの、お仕事のご都合が宜しいようでしたら、今週末。。。海を見たいと思って。。。マスターと一緒にタマさんのお店に行きませんか?メールでも良かったのですが、仕事中の錬太郎さんの声ってどんなのかな。。。って?♪」

 と悪戯っぽく恭子が言った。錬太郎は。。。少し間を置いて

「結構です。詳細は後日またご連絡致します。では、後ほど。」

と受話器を置いた。もう少し声が聞きたかったようだが、あっさり電話を切った。仕事バカの錬太郎らしい。それにしても何故。。。海が見たいなんて?まぁ。。。調度いい。。。昨夜の旅行の話もしなきゃと思っていたから。恭子の明るく爽やかな声が聞けた錬太郎は、普段ではあり得ないほど仕事に励んだ?なんと正直な男だ。。。♪  

そういえば、ガリレイやニュートン以前。。。アリストテレスの哲学に「目的論」というのがあったことを思い出した。彼が考えた「目的論」。。。「目的因」とも。。。言うらしいが、物には(人間の行動にも)、それに内在する性質として目的があって、それに応じた振る舞い(運動)をするという考え方だ。

 非常に不完全な考え方とも言われるが。。。今の錬太郎にはピッタリ♪。。。まさに目的がはっきり行動に現れている。相対的relative。。。相対性はrelativity。。。絶対はabsoiute。差し詰めrelative?錬太郎を見る人の基準によっては。。。まぁ。。。少しは見れる中年?などと。。。なんともはや。。。電話一本でそこまで昇るか。。。錬太郎。。。笑ってやって下さい♪

この錬太郎。。。どこか常識を捨てて生きているところがあり、それが欠点でもあり長所でもある。。。何れにせよ、彼の頭の中に浮かぶキーワードは、ほぼ出揃ってきたようだった。。。時間、記憶、自己、夢、そして旅。。。あとは、タマさんの予定を確認しなきゃ。

社が引けて、錬太郎は自宅近くの定食屋で夕食を済ませ、真っ直ぐ帰宅した。少し日が長くなり始めていた。まだ夜風は冷えるが、錬太郎には心地良かった。

 不思議なものだ。。。ほんの小さな出来事が心と身体を前向きにさせる。。。などと思ったり、夜の星や欠け始めた月も、どこか自分に微笑んでいるようにさえ感じる。。。錬太郎であった。

いやはや。。。まったく脳天気、幸せ者であった。

つづく