19.「不慣れな日曜日」 | 我ここに在りてここに無し

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青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。



 


自宅に帰った錬太郎は掃除に取り掛かった。掃除といっても右にあるものを左に重ねて寄せ、空きスペースを作りそこにまた他のものを重ねるパターン。なんとも頼りない掃除である。掃除機は一応使ってはみるものの、丸く室内を一周し気分だけは清々しくなっている。なんとも幸せな人間だ!拭き掃除などとんでもないが。。。今日はフローリングを乾拭きしている。

めったにしないことをすると災いが降りかかるもので、錬太郎は床に注意が向けられていたため。。。少し屈んだ拍子にテーブルの角にお凸をぶつけ。。。衝撃の反動で後ろに。。。そこには掃除機が。。。あぁぁぁぁぁぁぁぁ。。。後頭部も強打!頭の前後を強打。。。情けない。

 頭を保冷パックで冷やしながら。。。ソファーに腰掛け一休み。慣れないことはしない方がいいとつくづく思った錬太郎。すると。。。玄関のチャイムが鳴った。

「ピ~ん。。。ポーン。。。」

と少し元気のないチャイムに呼ばれ玄関へ。。。

「錬太郎。。。母さんですよ♪いま成田空港から真っ直ぐきたの。ほらぁ!開けて♪」

と疲れを微塵も感じさせない母の声であった。ドアのチェーンロックを外しゆっくりドアを開けるや否や。。。怒涛のごとく室内へ。。。ふ。。。っ。。。荷物が山のように散乱した。

 「あのね。。。メンフィスと墓地の遺跡跡とか。。。ギーザからダハシュールまでのピラミッドを見てきたわよ。。。なんだか時空を超えてきたみたい。。。私」

とまだ聞きもしない話をピラミッドのテッペンから卵を転がすより早く話し続けた。

「ほら。。。カイロの郊外にあるカフラ王のピラミッドでしょ。。。スフィンクスにクフ王のピラミッド。。。クフ王のピラミッドなんか700tもの石材を使ってるんですって。。。高さは138mもあるのよ♪すごいでしょ。。。どうやってあんなもの作れたのかしら。。。もう。。。圧倒されちゃったわぁ。。。なんだかエネルギーを感じたのよ。。。錬太郎も少しエネルギー補充したら?中年でも少しは覇気のある顔になるんじゃない?」

と母が大きな口を開けて笑いながら捲し立てた。

 いつものことだが。。。ある意味錬太郎は親子である証を感じていた。母は“時空を超えて”などと。。。錬太郎の思考回路に似ていると言える。ただ、これ以上母がエネルギーを充填し過ぎると、そのパワーに太刀打ちできないと思った。

海外に行くたびに。。。この調子で帰国する母には少し飽きれるが。。。まぁ。。。元気なので。。。よしとしようと錬太郎は諦めていた。母は、恐らく昇る太陽と共に姿を現すピラミッドに幻想的なものを感じてきたのであろう。。。それは頷ける。。。但し、頭の前後を強打したばかりの錬太郎にとっては。。。母の話し声がお寺の釣鐘の中に頭を入れた状態で鐘が鳴らされているようなものであった。

 いつものよう話すだけ話たら。。。脱兎のごとく引き上げる母。まさに台風一過!である。こんな調子で休みの一日が終わろうとしていた。

明日から仕事か。。。と、錬太郎は“稲村 弘”の“短歌の友人”という本を取り出した。風呂上りはいつもソファーで適当に重なった机から本を引き摺り下ろし、ジャンルを問わず。。。掴み取った一冊を読む。“酸欠世代のオデッセイ”。。。短歌の世界を通じて世界の面白さへ。。。と書かれてある。その中に面白い言葉を見つけた。

“現代歌人たちは、のっぺらぼうに広がる時空を前に、辛うじて定型によって自分に根拠を与え続けざるを得ない”。“その空しさに日々耐え、充足させようのない渇きをとりあえず満たすために、脅迫的に歌わざるを得なくなった”と。

何故か恭子の言葉と重なりかけていた。つらつらと読みふけって時計に目をやると既に0時を過ぎていた。

その夜は、そままソファー錬太郎は眠っていた。いったい、どこを漂って眠りに就いたのやら。。。
本人もか分からない。。。


つづく