ブラックホールに吸い込まれた夜から目覚めた錬太郎。薄目でベット脇のカレンダーに目を向けた。そう、今日は休日であることに気付いた。なんとも頼りない男。昨夜の話題が頭の中を僅かに過った。二日酔いらしいが、いつもの昼行灯と諦め薄汚れたカップにコーヒーを注いだ。カーテンの隙間から差し込む日の光に照らされながら、目じりに皺を寄せ集めた。ボサボサの頭を掻き大きな口を開け、室内の淀んだ空気を吸い込んでいた。
季節感もない錬太郎。いつもの薄汚れた皮のジャンパーの右袖にダルそうに腕を通し近所のコンビニへ向かおうと玄関ドアを開けた。ん?なんだ?いつもの風景では無かった。生命の誕生は40億年前と考えられているが、まさにミッシングリンク。。。35億年前までの5億年の隙間の謎の空間に入り込んでしまったかのような完全な謎の世界。藍藻類やバクテリアの化石や古い地層、原始生命など及びもしない、まさに宇宙から飛来した神様のような存在、そう「生命の素」ならぬ錬太郎の「母」であった。
「こらっ!錬太郎!そのだらしない格好は!!!!!髭も剃らないで!ほら、どいて!」
と朝日を背から受け、まさに神が降臨。この神様には、既に抵抗などできるはずもなく、ただ従順になるしかない錬太郎であった。母はすぐさま台所へ行きテキパキと朝食の仕度をし始め、掃除洗濯を同時進行し始めた。絶対にボケないと錬太郎は核心した。母は70を過ぎているが、とんでもない気力と体力を持ち合わせている。まさに、疾風のタマさんと同類?であった。
母と二人で朝食を取りながら「どうして今日こんなに朝早く来たの?母さん?」と錬太郎が言った。錬太郎の実家とマンションは電車で2時間ほど離れている。「私ねぇ、今日からエジプト旅行に行くのよ♪だから錬太郎の顔見てから行こうと思って」と母は軽く言った。「あっ、そうなんだ。いってらっしゃい。」と無愛想に言うと「こらぁ!もう少し寂しそうに言いなさい!もう会えないかもしれないよ!」と錬太郎の頭を食卓越しに小突いた。「母さんの、その台詞毎度聞き飽きたよ。2月に一度は海外へ旅行してるじゃないか~」と呆れ顔でご飯を口へ運んだ。
「まぁ、そうだけど。あっ、ところで大事な話しを忘れるとこだったわ。錬太郎、家の裏にある松林、防風林知ってるわよね。お前の遊び場よ。あの松林の奥に神社があったでしょ。深森神社。あそこが火事で全部燃えたのよ。それで燃え後を見にいったら、警察や消防の人が検証してたのね。原因は解らないみたいだけど。で、焼け跡を遠くから眺めていたら、ほら、貴方の幼馴染の恭子ちゃん。知ってるでしょ。貴方より10位下の子。目のくりっとした可愛らしい子よ。あの子が立って見ていたの」と母が言った。「へ~っ、恭子ちゃんか~。あの子、今何処に住んでるのかな?高校卒業依頼まったく解らないよ。で?」と錬太郎は続きを聞いた。
「恭子ちゃんに声を掛けたら、今、神奈川の久里浜に住んでるって言っていたわ。でも、何だか深く聴いて欲しくないような雰囲気で・・・。そしたら、錬太郎のことを聞くから。何か連絡したいことがあるとかで。で、ここの住所と電話番号教えておいたわ。じゃ!行くね!錬太郎♪さいなら~いってきま~す♪」と軽くバッグを肩から掛け家を出ていった。台風一過、嵐のような母であった。いったい俺に何の用があるのだろう。錬太郎は嵐の過ぎ去った部屋に、一人ポッンと頬杖をつきながらコーヒーを注いだ。
つづく