名作プレイバック「カツオの修学旅行」 | 週刊サザエさん

名作プレイバック「カツオの修学旅行」

1970年放送


※一部、音声の都合で聞き取れない部分は独自の解釈で文章にしております。そのため、放送とは若干異なる部分がございます事をご了承下さい。


●散髪屋


顔剃りしてもらいながらニヤけているヒゲ面のオッサン。
ご主人、オッサンに蒸しタオルをかけて、カミソリを研ぎつつその様子を見ている。


ご主人「旦那、お安くないね。明日は彼女と一泊旅行ですか?」


ご主人、蒸しタオルを取る。すると、その下にはカツオの笑顔。


カツオ「違うよー修学旅行だよ」
ご主人「(驚く)ええー!?」


どうやら、ご主人、別の客と間違えたようだ。
そして、カツオの含み笑いのアップからタイトル。


『カツオの修学旅行』
脚本:雪室俊一 演出:鳥居伸行


●路上


バイクを走らせる郵便配達員。
やがて、磯野家の前に止まる。


●磯野家・玄関


配達員「磯野さん、速達ですよ」
ワカメ「はーい!ご苦労さまー」


ワカメ、速達の内容に視線を落とすと目を剥いて驚く。


ワカメ「ねー!ちょっとみんなちょっとー!」


●磯野家・台所


家事をしているサザエとフネの元にワカメが飛び込んでくる。


ワカメ「大変大変!修学旅行のカツオ兄ちゃんが!」
サザエ「カツオがどうかしたの?ワカメ」
ワカメ「海で溺れて大変らしいのよ!」
フネ「どれどれ貸してごらん?」


フネ、速達を受け取る。どうやら絵葉書のようだ。


ワカメ「ねえ!すごい水でしょう!」
フネ・サザエ「(クスクス笑う)」
ワカメ「何が可笑しいのよ!」
サザエ「ワカメ、この写真は広島県の厳島神社の有名な鳥居でね、海の中にあるのよ」
フネ「日本三景の一つだよ」
ワカメ「ノリスケおじさんの家とおんなじね」
サザエ「あれは3DKでしょ。三景と言うのはね、景色のいい三つの場所の事。ここと松島と・・・うーんと・・・」
ワカメ「東京タワーかな?」
サザエ「そうそう、東京タワー・・・なに言ってんのよ」
フネ「天橋立でしょ?」
サザエ「そうそう、その橋立」


いずこともなくタラヲが現れて箸立てを差し出す。←1ボケー


タラヲ「はーい、箸立てでしゅ」
サザエ「もーう、きらい!もーう」


●磯野家・居間


帰宅している波平。フネの手伝いで着物に着替えている。


波平「ほう。カツオが旅行先から絵葉書を寄越したか。何て書いてあった?」
タラヲ「とっても利口なお猿さんの事でしゅ」
波平「んー?どれどれ?」


●動物園(カツオの絵葉書内容)


猿の檻の前で担任やる蔵が旗を持っている。


担任「(子供達に)おーい、ここで全員写真を撮るから並んで」


その担任の声に、ボス猿が小猿を集め始める。


写真屋の声「さあ、皆さん、撮りますよー」

檻の前に集合した5年3組一同。中島の姿も見える。


写真屋「ハイハイ、笑ってー」


パチリ。
ちゃっかりと彼らの背後には猿もズラリと並んで写真に納まっている。


●磯野家・居間


ワカメ「早くその写真できないかなー?」
サザエ「(ワカメの頭を小突いて)ばっかねー。ウソに決まってるじゃない」
波平「(笑いながら)相変わらずふざけたヤツだ」
ワカメ「なーんだ、ウソなの?おかしいと思った」
タラヲ「つまんないの」
波平「・・・隅っこに小さい字で何か書いてある」
フネ「何て書いてあるんです?お父さん」
波平「んー・・・ところで、小遣いが予算オーバーしそうです。もし息子が可愛いと思ったら送って下さい」
フネ「んま、あきれた」
サザエ「それでカツオったら速達なんかで寄越したのね」
波平「仕方がない。電報為替で送ってやるか」
フネ「そんな必要ありませんよ、お父さん」
サザエ「そうですよ、修学旅行先にお金を送らせる子供なんて聞いた事ないわ」


会話の中、タラヲがどこかへ駆け出していく。


波平「しかし、一生に一度の旅行だ」


タラヲ、豚の形をした貯金箱を持ってくる。


タラヲ「これ、電報で送ってちょうだい」←言葉遣いに注目
波平「(満面の笑顔でタラヲを抱き上げる)えらいぞ、タラちゃん」
サザエ「(あきれ笑い)親バカもいいとこね」
フネ「でもあんな子でも居なくなると何となく寂しいねえ」
マスオ「そうですねえ。火が消えたような気分ですね」←唯一のセリフ
ワカメ「どうしてるかなあ、お兄ちゃん」


タラヲ、感慨深そうに絵葉書を見つめ続ける波平を見上げる。


タラヲ「どうちてまちゅかねえ」


●広島・厳島神社~旅館


雄大で壮観な眺め。


●旅館・通路


カツオ、旅館の作業着を着込み、積み重ねられたお膳を運んでいる。


カツオ「おーととと。ハイハイ、どいてどいて、退いて下さいよー」


旅館の番頭、そんなカツオの様子に驚く。


番頭「はあ・・・?」


●旅館・厨房


お膳を運び込んだカツオ、女中達に迎えられる。


カツオ「ハイ、お持ちしましたよ。これで萩の間全部終わりです」
女中A「スイマセンねえ、すっかり手伝ってもらって」
カツオ「いやあ、安い学割で泊めてもらってるんだから、これくらいの事は当然ですよ」

カツオ、続いて汚れ物の皿を洗い場に持ち込む。

カツオ「いっちょ、洗いましょうね」
板前「(たじろいで)ぼ、ぼっちゃん。お客さんにそんな事させたらあっしが旦那に叱られますよ」
カツオ「いいっていいって。ボク、好きでやってんですから」


カツオ、口笛を吹きながら皿を洗い始める。
その様子を感心して見ている女中達。


女中A「いまどき、珍しい子だねえ」
女中B「きっと将来大物になるわよ」


その様子を厨房の外から微笑ましそうに番頭が見ている。


番頭「(ニコニコ)うんうん」


●旅館・部屋


5年3組児童達がにぎやかに枕投げをしている。


子供達「えーいえーいそれーそれー」


その騒がしさに様子を見に来た担任の顔面に枕が直撃。


担任「(怒)こらー!消灯時間はとっくに過ぎとるぞー!」


子供達、慌てて布団の中に潜り込む。


担任「うん?磯野は?磯野はどうした?」
中島「さっき、風呂場に行きましたけど」
担任「こんな時間にか?」


●旅館・風呂場


カツオ、鼻歌を奏でつつブラシを手に風呂場の床掃除をしている。
そこに担任が駆け込んでくる。


担任「磯野!何が起こった?」
カツオ「ああ、掃除ですよ。先生だってできるだけ旅館の人に迷惑をかけないようにって言ったでしょう?」
担任「えーいや、でも何もそこまで・・・」
カツオ「ボク達で汚したものは自分達で掃除をする。先生だってどうぞお先に寝て下さいよ」
担任「(カツオの額に手を当てて)磯野、お前、熱でもあるんじゃないのか?」


その様子を浴槽の中から、頭から桶をかぶった番頭が見ている。


番頭「んー、いよいよこれは本物だぞ・・・」


●旅館・玄関


旅館を後にする子供達。玄関口に殺到している。

担任「ほら押さないで、順番だ、順番だ」


●旅館・部屋


独り残ったカツオ、部屋の見回りをしている。


カツオ「えーと、ここはよし。この部屋の忘れ物はと・・・」


その様子をまたまた番頭が微笑ましそうに見ている。
部屋の中はゴミで散らかっている。


カツオ「あーあ、こんなに散らかしてしょうがないなあ」


片付け始めるカツオ。
その様子を見て、番頭が揉み手をしながら入ってくる。


番頭「ぼっちゃんぼっちゃん・・・私、ここの番頭でございますが、向学のためにぜひともお名前を」
カツオ「名前?名乗るほどのものじゃありませんよ」


カツオ、誰かの忘れ物のパンツを見つける。縞々トランクス。


カツオ「誰だ?パンツ忘れたのは?日本人は旅のマナーが悪くてねえ」


カツオ、あきれながらパンツを畳み終えると、番頭に帽子を取って御礼をする。


カツオ「さ、どうも、お世話様になりました」


番頭、出て行くカツオをニコニコ顔で見送る。


番頭「んー、まさしく、出来とる」


●旅館・玄関


女中達に頭を下げるカツオ。


カツオ「どうも、皆さん、お世話様になりました」
女将「どうも」


●旅館・玄関先


外では担任達がバスの前で待機している。


カツオ「パンツ忘れた人ー。スースー風通しのいい人いませんかあ?」
子供達「(大爆笑)」
担任「(睨みつつ)磯野お・・・!」
カツオ「あ、先生(のパンツ)でしたか」
担任「んー違う!お前に今朝、電報為替が届いた。旅行先から父兄に小遣いを強請るとは何事じゃ!んー!?」


●旅館・部屋の窓


窓縁に腰掛けた番頭が担任に怒られているカツオを笑顔で見下ろしている。


番頭「うーん、いやいいねえ。みんなの忘れた物を調べていて並ぶのに遅れたのに、そんな事はおくびにも出さない。男ってものはああじゃなくちゃねえ、うん」


●山川商事(波平の会社)


波平、鳴り始めた黒電話の受話器を取る。


波平「ハイ、磯野です・・・なーんだ、サザエか・・・なんだって?カツオが帰って来たからすぐ帰れ?バカな事言うんじゃありません。息子が修学旅行から帰ったくらいの事で早退けできますか。なに・・・?」

クスクス笑う女性社員を尻目に、突然、波平の表情が変わる。

波平「カツオが養子に!?」


●磯野家・波平の部屋


背広を着込んだ番頭が波平に頭を下げている。
その傍らにはカツオ、ワカメ、タラヲ。


番頭「はあ、是非ともご子息を養子に頂戴したいと存じまして」
波平「(戸惑い)は・・・あ・・・」


サザエとフネ、襖の向こうから聞き耳を立てている。


サザエ「カツオのヤツ、また外面がいいところ見せたらしいわ」
フネ「人騒がせな子だねえ」


番頭「私どもには、毎年、何万もの修学旅行の生徒さんが見えられます・・・が、これだけ気のつく生徒さんは初めてです。ゆくゆくは私どもの旅館の経営者としてですな」
波平「ま、ま、待って下さい。あまりに急な事でワシには何の事やら」
番頭「無理もありません。かくなる上は私もお父上のご返事を頂くまでは、しばらく厄介にならせていただきます。料理の方はいささか自信がございますゆえ、お任せ下さい」


番頭、かばんから法被やまな板、包丁、あまつさえ魚までも取り出す。


サザエ「(あきれて)まあ」

番頭「さ、今夜は瀬戸内海特上の魚料理とまいりましょう」

ワカメ・タラヲ「わーい^^」


番頭、ワカメ達と共に台所へと出向く。
後には頭を抱える波平と、澄ました表情のカツオ。慌てて、フネとサザエが駆け込んでくる。


フネ「お父さん!どうするんです!?」
波平「ん・・・んー・・・」


波平の苦悩やフネの戸惑いをよそに、ニコニコ顔のカツオ。


カツオ「ボクってどうしてこうしてモテるんだろう?」

波平「(考え込む)う、うーむ・・・」


この話続く

次回は「ぼくはもらわれる」をお送りします。