名作プレイバック「早春伊豆長岡の別れその一」
◆今週、東海地区ではサザエさんの放送がありませんでしたので(4月9日に順延)、今回は名作プレイバックと称して、1985年3月に放映されました「早春伊豆長岡の別れその1」を完全再録してみました。このお話は、延々と日常が繰り返されるサザエさんの中でも特筆すべき物であり、当時の隣人であった「浜さん」との別れを描いているものです。いつものような茶々や突っ込みは一切入れずに、一字一句正確に再現しております。お楽しみ頂けると幸いです。
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☆基礎知識
◆登場人物
浜さん・・・ひげを生やしたダンディーな画家
浜夫人・・・のんびり者の奥さん。どすこい体型
ミツコ・・・浜さんの一人娘。高校生?
ジュリー・・浜さんの飼い犬。好物は葉巻
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●浜家玄関
遊び帰りのカツオとワカメ、浜さんの家の前に止まっている運送屋のトラックを見かける。
ワカメ「お兄ちゃん、浜さんの家・・・」
カツオ「引越しするのか!?」
●磯野家
カツオとワカメの疑問に対して、フネとサザエが受け答えしている。
フネ「浜さんのおばさんは、あんまり体が丈夫じゃないだろ?」
サザエ「だから空気のいい伊豆の別荘にしばらく行く事になったのよ」
タラヲ「ミツコお姉さんもでしゅか?」
サザエ「そうよ」
ワカメ「母さんたち、前から知っていたのね?」
カツオ「ひどいよ、僕たちに黙っているなんて!」
サザエ「ミツコさんに間際まで黙っていて欲しいと頼まれたのよ」
カツオ「ミ、ミツコさんに?」
タラヲ「ずるいでしゅ、ミツコお姉さん」
フネ「だけど引越しの時は皆一緒だよ」
ワカメ「え?どう言う事?」
サザエ「全員で伊豆へ行くのよ」
タイトルバック
早春伊豆長岡の別れその1
脚本:雪室俊一 演出:村山徹
原画:月川秀茂 背景:大隅敏弘
●伊豆・三島駅
電車で伊豆に訪れたらしい磯野家と一緒に招待されたと思われるノリスケ一家、そしてミツコが、駅前で浜さんの到着を待っている。
ミツコ「東京駅からたった一時間よ。近いでしょ、タラちゃん?」
タラヲ「(そっぽを向いて)遠いでしゅ!」
イクラ「(不機嫌そうに)バブー」
ミツコ「まあ」
浜さんの車が到着。中にはジュリーも乗っている。
浜さん「やーどうもーお待たせしましたー」
ジュリー「ワン!」
波平「東京からじゃお疲れになったでしょう?」
浜さん「いやー新幹線にしたかったんですが、ジュリーが居ますんでねえ」
ミツコ「タラちゃんとイクラちゃん、アタシとこの車に乗らない?」
サザエ「それがいいわ。私たちはタクシーで後に続きますから」
しかし、タラヲとイクラは何かが気に入らないらしい。
タラヲ「ボクもタクシーがいいでしゅ!」
イクラ「ハーイ!」
タイコ「イクラ、乗せていただきなさい」
サザエ「タラちゃん!」
タラヲ、バス停にしがみついて完全拒否する。
タラヲ「いやでしゅー!」
イクラ「バブー!」
サザエ「んー、しょうがない子ねえ」
●車中
結局、車内にはカツオとワカメが同乗する事に。
ミツコはややブルーが入っている。
ミツコ「タラちゃんとイクラちゃんにすっかり嫌われてしまったみたいね」
ワカメ「あんまり急なんでビックリしちゃってるのよ」
カツオ「せめてもう少し前に教えてくれれば、タラちゃんだって心の準備が出来たんじゃないかなあ?」
ミツコ「・・・私は寂しい時間が増えるだけだと思うわ」
ワカメ「そうかあ、それでミツコさんは私たちに黙っていてほしいって」
カツオ「そう言えばそうだな、ボクも父さんに叱られる時、予告されるとずーっとビクビクして待っていないといけないものなあ」
雷様に扮した波平に怯えるカツオのイメージ。
浜夫人「ホホホホホホ。カツオちゃんらしい例えねえ」
カツオ「い、いやあ、どうもー」
ジュリー「ワン!」
●狩野川沿い
季節だけあって、色鮮やかな桜が満開である。
どうやら、宴会(花見)が始まるらしい。
浜さん「さあ、湿っぽくならずに、パーっと派手にやりましょう、派手に!」
フネ「まあ、見事な桜・・・」
波平「富士があって桜があって、後は・・・」
浜さん、日本酒のビンをここぞとばかり取り出す。
浜さん「はい、これでしょ?磯野さん」
波平「オゥ!ハハハハ」
一方、近くの河原ではタラヲとイクラがジュリーと戯れている。
タラヲは花で編んだ首飾りをジュリーにかけようとするが、ジュリーは走り出している。
ジュリー「ワン!」
タラヲ「ワーイ、ジュリー」
桜並木下の簡易宴会場では、いよいよ別れの酒盛りが始まったようだ。
ノリスケ「やあ、恐縮です。甘党の浜さんにお酒の用意までしてもらって」
浜さん「ハハハ、なーに、私はどうせ車の運転がありますから」
波平、浜さんにジュースのビンを差し出す。
波平「まあまあ、どうぞ、ひとつ一杯」
浜さん「やー、こりゃどうもどうもー」
サザエ「父さーん、私たち、食べ放題のデザートを食べてくるわ」
マスオ「食べ放題のデザート?」
●イチゴ狩り園
ビニールハウスの中でたわわに実っているイチゴ。
女性陣と子供達がティーカップ片手に訪れている。
ワカメ「わー、イチゴの匂いだけでお腹いっぱいになりそう」
カツオ「大きいのと小さいのとどっちが甘いのかなあ?」
タイコ「含まれている糖分は同じだから、どれも甘さは同じよ」
サザエ「(大口空けてイチゴを頬張りつつ)ヘー、タイコさん、物知りなのねえ」
タイコ「さっき、ここのおじさんに聞いたの」
サザエ「ははーん、そうだったの」
一方、興味深くイチゴを見つめているタラヲとイクラに対して、ミツコが話しかける。
ミツコ「ほら、タラちゃんとイクラちゃんみたいなイチゴがあるわよ」
タラヲ「(機嫌悪そうに)フン!」
タラヲとイクラ、ミツコにそっぽを向いてどこかへ行ってしまう。
そんな子供達の様子に呆れ気味のサザエとタイコ。
サザエ「タラちゃん!いつまで拗ねてるの!」
タイコ「イクラ!こっちへいらっしゃい」
しかし、タラヲとイクラはあさっての方向を見たまま。
2人とも、気まずそうにミツコに頭を下げる。
サザエ「ごめんなさいね、ミツコさん」
タイコ「すいません」
ミツコ「(笑顔で)いいえ、タラちゃんたちの気持ちもよくわかりますから」
●富士山の見える観覧車
波平とフネが楽しそうに乗っている。
●テニスコート
サザエvsミツコの対決。
サザエ「いいわよーミツコさんー」
ミツコ「(サーブしながら)それ!」
サザエ「はい!」
そんな2人の対戦を、タラヲとイクラが金網越しに羨ましそうに見ている。
そして、タラヲはミツコお姉さんが蝶に変わって、自分の前から飛んで行ってしまう幻影を見る。
寂しそうな表情を見せるタラヲ。
●ゴーカートコース
2人乗りのゴーカート。
悠々と乗っているカツオとワカメペアの反面、サザエとタイコペアはぶっ飛ばし過ぎてパニックになっている。
サザエ「ギャー!誰か止めてー!」
カツオ「(笑いながら)ブレーキを踏むんだよ、姉さんー」
サザエ「踏んでるわよ、さっきからー!」
タイコ「うひゃー」
サザエ「フギャー!!」
カツオ「もっと強く踏むんだよー」
ようやく、サザエのゴーカートが止まる。隣ではタイコが致死状態である。
サザエ「あら、ホントだ」
カツオたちのゴーカートがサザエを抜いていく。
カツオ「お先にー」
サザエ「(大声で)ねえ、カツオ、アクセルはどこなの、これ?」
その横をノリスケとイクラペアが通りかかる。
ノリスケ「ブレーキを離せばいいんですよ」
●歩道橋
ゴーカートを楽しむ磯野家一家を見守る浜家一家。
ミツコと浜夫人が下を通っていくマスオとタラヲのペアに手を振るが、タラヲは相変わらずそっぽを向くばかり。
浜さん「タラちゃんたち、相変わらずご機嫌斜めだな」
ミツコ「口も利いてくれないの」
浜夫人「それだけ、ミツコが好かれているって事よ」
●桜に囲まれたお堂(鐘楼門?)
浜さんご夫婦と波平夫妻。
浜さんはお堂をスケッチして、波平は句帳に俳句を認めている。
浜さん「いやー、私たちにはこう言う所の方が落ち着けますな」
波平「おかげで一句出来ました」
浜夫人「よろしかったら、ご披露していただけません?」
波平「(句帳を後ろに隠しながら)あー、いやいや、とても人様にお見せできるような物では・・・」
フネ、波平の背後から句帳を覗き込んで俳句を読み上げる。
フネ「『親は寺、子らはサイクルセンターへ』」
波平「か、か、母さん!」
波平、恥ずかしそうに帽子を下ろして目元を隠す。
●サイクルセンター
マスオは優雅にローラースルーを楽しみ、ノリスケはおそるおそるミニサイクルに乗っているが・・・
ノリスケ「うわーわーわあ!」
思いっきりコケて尻もちをつく。
一方、ミツコとワカメは2人乗り自転車を楽しんでいる。
ミツコ「ここには3500台もの自転車があるんですって」
ワカメ「じゃあ、一日一台ずつ乗っても10年近くかかるわねえ」
イクラとタラヲもそれぞれ消防車とパトカー風の自転車を楽しんでいる。
タラヲ「(サイレンのマネをして)パフパフー!」
●サイクルモノレール
2人乗りのモノレール。
タラヲはサザエと、イクラはタイコとそれぞれ楽しそうにモノレールに乗っている。
一方、ワカメはミツコと水上サイクルに同乗している。
ワカメ「ミツコさん、さっきお兄ちゃんといい事考えたの」
ミツコ「もしかして、タラちゃんたちの事?」
ワカメ「うん。これからロープウェイに乗るでしょ?それでね・・・」
何やらひそひそ話をしているワカメとミツコをモノレール上から覗き込むタラヲ。
タラヲ「あー、ワカメお姉ちゃん、ずるいでしゅ!」
サザエ「そんなに気になるなら一緒に乗せてもらったらどお?」
タラヲ「(拗ねて)乗らないですよーだ」
サザエ「っま!」
●ロープウェイ乗り場
カツオがタラヲとイクラを先導している。
カツオ「さあ、タラちゃんとイクラちゃんは先に乗ってー」
タラヲ・イクラ「ハーイ!」
タラヲとイクラが嬉しそうに先にロープウェイへ乗り込む。
カツオ「ミツコさんも早くー!」
ワカメ「さあ早くー」
ワカメにお尻を押されながら、ミツコも戸惑いながらロープウェイに乗り込む。
カツオ「(係員に向って)発車させて下さい」
●ロープウェイ内
そして、磯野家に見守られながら、ミツコ・タラヲ・イクラ3人だけのロープウェイが発車する。
タラヲ「ママー!」
イクラ「バブー!」
不安そうなタラヲとイクラ。
●ロープウェイ乗り場
不安そうなマスオ。
マスオ「ねえ、大丈夫かい?カツオくん」
カツオ「心配なく。このロープウェイは片道15分もあるんだから、後はミツコさんにお任せして」
●ロープウェイ内
相変わらず、ギクシャクした雰囲気が流れているロープウェイ内の3人。
ミツコ「まだ怒ってるの?2人とも」
タラヲ「怒ってましゅ!」
イクラ「ブー」
ミツコ「タラちゃんもイクラちゃんも、アタシにさよならするだけでしょ?」
タラヲ・イクラ「え?」
ミツコ「でも、アタシは1人だけじゃなくて、カツオくんやワカメちゃん、裏のおばあちゃんたちにもサヨナラしなきゃならないのよ」
涙を拭いながら、裏じいたちに別れを告げているミツコのイメージ。
ミツコ「わかるでしょ?」
タラヲ・イクラ「(考え込む)う、うーん・・・」
ミツコ「1人にサヨナラするより、大勢にサヨナラする方が辛いのよ」
タラヲ「でも、寂しいでしゅ・・・」
イクラ「ハーイ・・・」
ミツコ、タラヲの肩を抱く。
ミツコ「それにタラちゃんたちは男の子でしょう?」
タラヲ「ミツコお姉さんは女の子でしゅ」
ミツコ「女の子より男の子の方が強いでしょ?」
タラヲ「うん、強いでしゅ」
ミツコ、タラヲを抱き上げて、窓の外の景色を見せる。
ミツコ「だったら、女の子を困らせちゃダメよ」
タラヲ「困ったでしゅか・・・?」
ミツコ、今度はイクラを抱き上げる。
ミツコ「とっても悲しかったわ」
タラヲ「(殊勝に)ゴメンでしゅう・・・」
●ロープウェイ降り場
やや遅れて、サザエ、カツオ、タイコが到着する。
カツオ、何かを見つけたらしく指を指す。
カツオ「ほら、あれを見て」
その先には、ベンチに腰掛けてタラヲとイクラの肩を抱いているミツコの後姿がある。
タラヲとイクラもミツコの腰に手をかけて、思いっきり甘えている。
タイコ「よかったわ」
サザエ「(カツオの帽子をずりおろしながら)カツオにしてはいいアイデアだわ」
カツオ「姉さんもタイコおばさんも、夫婦ケンカした時にはこのロープウェイに乗るといいよ」
●伊豆の町
ミツコを中心に、タラヲとイクラが楽しそうに歩いている。
タラヲ、何かを見つけて驚いた表情で指をさす。
タラヲ「あ!お店が火事でしゅ!」
店の前では蒸し器がもうもうと煙を放っている。
ミツコ「あ、あれはおまんじゅうを蒸かしている煙よ」
タラヲ「美味しそうな匂いでしゅ」
ミツコ「ちょっとお行儀が悪いけど、食べながら歩いちゃおうか」
タラヲ「うん」
一方、この3人を探しているらしいサザエとカツオ、タイコ。
サザエ「どーこ行っちゃったのかしら、3人で」
カツオが3人の姿を見つけたらしく、指をさす。
カツオ「あ、あそこだよ」
サザエ「あら、ホントだ」
タラヲ「すっかり仲直りしたみたいね」
カツオの指差した先には、温泉まんじゅうを頬張る3人の姿がある。
タラヲ「(食べながら)ふーん、ミツコお姉ちゃんみたいでしゅ」
ミツコ「やだー。あたしの顔ってこんな温泉まんじゅうみたいなの?」
タラヲ「ううん、温かいからでしゅよ」
イクラ「ハーイ!」
ミツコ、その言葉を聞いて嬉しそうに、富士を臨みつつ温泉まんじゅうを頬張る。
おわり
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ミツコとの別れに踏ん切りをつけたタラヲ。
しかし、タラヲを待っていた別れはこれだけではなかった・・・
続きは(その2)、また機会がありましたら。