農家圃場を訪問する際、道順を覚えるのが大変です。
アフリカの田舎道には周囲に目印になるものが見当たらないことがしばしば。村から圃場に向かう道はクルマが通れないほど狭い場合も多く、背の高い雑草が生い茂って獣道のような状態になっていることもあります。そんな道を稀に独りで歩くとき、かなり緊張して行動することになります。人口密度が低いアフリカの田舎道で迷子になって途方に暮れる、というのは絶対に避けたい事態であります。
探検家ウエムラ・ナオミ氏が犬ぞりで北極点を目指す冒険旅行に出かけた際、アメリカ航空宇宙局(NASA)が衛星を使って彼が移動する軌跡をトレースして常時確認しました。安全面の必要性もあったのでしょうが、地球の北極点は陸地ではなく常に移動している氷上にあるため、ウエムラ氏が確かに北極点に到達したか否かの判断をするには、衛星で位置を確認する必要があったのです。
探検家が人工衛星と連絡を取り合って現在位置を正確に把握するなんて、その当時はものすごく未来的な話に聞こえました。
そんな高度な技術であったGPSトラッカーも現代では個人で普通に購入できるようになりました。私が初めて手に入れたGPSは非常にコンパクトなもので、往年のカメラのフィルムくらいのサイズでした。どこにいてもその場所の経度と緯度を的確に示してくれる装置が自分の手のひらにあるというのは万能の地図を手中に収めたような錯覚があり、大いに感動したものです。
スマートフォンが世に出た頃から、GPSによるナビゲーション・システムは特に珍しい機能ではなくなりました。農家圃場への道順を苦労して覚える必要もなくなりました。
一時期私が愛用していたのはスマホのナビ・アプリ「ジョン・デンバーのスペシャル・ナビゲーター “テイク・ミー・ホーム”」でありました。自宅の場所を登録しておけば、どんな田舎で道に迷ったとしても確実に最短の帰路を示してくれるという、今考えるととても基本的な機能しかないナビですが、シンプルであるがゆえに頼もしく、また、自宅まであと少しの距離になると決まって「バックホーム・アゲイン」が再生され、やさしい気持ちで帰宅できるという優れたアプリでした。
ファンにはたまらない別機能として、ジョン・デンバーのヒット曲と所縁のある場所を通過するたびにその曲が再生されるというオプションもありました。カリフォルニアから州境を三つ越えてコロラド州に入った時に「我が故郷アスペン」が流れてきたりしたら感涙ものでしょうけれど、いかんせん北米生活者ではないので、そんな感動を味わったことはありません。
最近は同様のアプリの「ポール・サイモンのドライブ・ナビゲーター “早く家に帰りたい”」を愛用しています。ポール・サイモンは1980年代に南アフリカ共和国のバンド「レディスミス・ブラックマンバーゾ」と一緒に名作「グレイスランド」(1987年にグラミー賞を獲得)を作成したことがあり、アフリカ関係の曲が多いんです。
なによりもモザンビークで起動するたびにポールの声で「You’re walkin’ your day under African skies!」と言ってくれるのが嬉しくてたまらない(アンダー・アフリカン・スカイズは前述のグレイスランドに収録されている名曲です)。
また、このアプリには日本向け隠しイベントがあり、日本の甲子園球場付近ではポールが歌う阪神タイガース応援歌が再生されるそうです(ポール・サイモンはコンサートで阪神タイガースのキャップをかぶって登場するほどの大ファンです)。私は未だ大阪でこのアプリを使ったことがなく、次回帰国時にはぜひとも大阪へ行き、ポールが歌う「六甲おろし」を聴いてみたいと思っています。