通勤には電車を利用しており、都内の会社に着くまで、およそ1時間を車内で過ごします。

 

ある朝の車内。運良く座れた私はすぐに居眠り状態に。そのまま数駅を過ごし、ふと気づくと4人の若い男女が前に立っていました。察するに4人とも同じサークルか何かに所属する大学生のようです。
左側の二人の男女は恋人同士のようで、お揃いのジャケット着て手をつなぎ、二人だけでコソコソ話して、時折クスクスと笑い合っています。
右側の二人は普通のお友達同士のよう。右側に立つ男子が隣の女子に、昨夜遭遇してしまった怖い体験を話しています。

 

「昨夜、眠っている時、金縛り状態になってしまっていることに気付いて目が覚めたんだ。眼はつむったまま身動きできないんだけど、部屋の中の様子がわかるのが不思議だった。部屋の隅に白い服を着た髪の長い女性が立っていて、ベッドで眠っている僕のことをじーっと見ているのが感じられたんだ」

 

男子の話し方が上手で、聴き手の女子は相槌を打ちながら熱心に聴いています。
知らんぷりしていましたが、実はオジサンも集中して聴いていました。

 

「その女性、僕は見たことも無いヒトのはずなんだけど見覚えがあるような気がして。金縛りで苦しい身の上にありながら記憶を探って、子供の頃のあの友人が成長したらこんなカンジになるかな、とか、中学の時の担任教師がこんな雰囲気じゃなかったっけ、とか考えていたんだ」

 

「誰だかわかったの?」と、まさにオジサンも聞き返したくなるうまいタイミングで女子が質問。

 

「いや、わからなかった。考えているうちに、そのまま眠っちゃったみたい」

 

「ふーん、そうなのー」と、女子。

 

「で、今朝、起きた時、当然のことながら金縛りは解けていて、朝日で明るい部屋はとても平和で、昨夜の怖かった体験は単なる夢だったのかなー?なんて半信半疑だったんだけど」

 

「うん」

 

「その女のヒトが立っていたところを見たら、カーペットの上に長い髪の毛がいっぱい落ちてた」

 

「げっ!!」

 

淡々とした語り口でしたが、そのぶんオチが衝撃的に聞こえ、オジサンもゾッとしました。
慌てたのは熱心に聴いていた女子。意外なオチの怖さを独りで受け止めることが出来なくて、小規模なパニック状態。

 

「それメッチャクチャ怖い話じゃないですか怖いじゃないですかメチャクチャ怖い」

 

言ってることがメチャクチャ。
怖さをだれかと共有したくて堪らず、左側で恋人トークしてる男子のジャケットの袖をぐいぐい引っ張って、

 

「コワイハナシ、怖い話です」

 

「んー? どしたー?」

 

「か、髪の毛がカーペットの上にいっぱい落ちてて」

 

と、慌ててるせいで、あろうことか最後のオチから語り始めてしまった女子。
ラブラブトークを邪魔された男子はクールに

 

「コロコロクリーナー使うと簡単に取れるよ」

 

一部始終を聞いていた私と隣りに座っていた同年輩のオバサンが吹き出したのは、ほぼ同時でありました。