ケニヤのムウェア灌漑事業地は鳥類が豊富に生息する地域であります。

 

コメを食害するスズメやハタオリドリの類はもちろん、水田で水生昆虫や小魚を食べるサギの類など、いろんな種類の鳥どもがいます。この間はフラミンゴが群れを作ってやってきました。田植えが始まった途端、どこかに飛んで行ってしまいましたけど。

 

野生の鳥を眺めるのはなかなかに楽しい行為であります。水田付近で仕事をする時は、合間に俄かバード・ウォッチャーになる私です。

 

 

これはBlacksmith Plover(ブラックスミス・プラヴァー)。和名:シロクロゲリ。英名のプラヴァーはチドリのこと。ブラックスミスは鍛冶を意味します。ティン、ティン、ティンと連続する甲高い鳴き声が鍛冶屋のハンマーの音を連想させることから命名されたそうです。和名のゲリというのは同じ仲間のケリに由来します(この仲間には他にタゲリとかナベゲリなんていうのもいて、特に後者は一度見てみたい。だって鍋蹴りなんて、癇癪持ちのおかみさんみたいな名前じゃないですか)。

 

シロクロゲリは水田で食べ物をあさり、畦(あぜ)や畔(くろ=水田を隔てる畝)に営巣する中型の鳥で、ムエアではとても一般的です。
ハンマー風の鳴き声は実は警戒音で、近くに外敵がいることを仲間に知らせるために発せられる音です。水田のわきにこっそりと作られた巣にはきっと卵があり、そこに敵が近づくにつれてティンティン・サイレンが早くなります。

 

別に巣に興味はなかったのですが、ガイガーカウンターのように発せられるその音が面白くて畔をウロウロしてみました。たぶんつがいなのでしょう、水が張られた水田で食べ物を探していた2羽のシロクロゲリが歩みを止めてじっと私に注目し、ティン、 ティン、 ティン、とそれぞれほぼ同じテンポで鳴き始めました。
かまわずゆっくり畔の上を進むと警戒音のテンポが速くなり始めました。更に歩みを進めるとティンティンティンティン! 
スゲー! 耳障りな鳴き声が攻撃的な響きを帯びてきました。きっと私がいま立っているあたりに巣があるのです。足元を目で探っていましたら親鳥の鳴き声が一変しました。警戒モードから迎撃モードにチェンジ! 水田から揃って飛び立った親鳥はギャーッギャーッと更に逼迫した声で鳴きながら私を威嚇するように飛び始めました。ガイガーカウンターの針が振り切れたような緊迫度。親鳥たちは頭上を旋回し、私に向かって直線的に飛んで威嚇します。

 

 

 ですが、こちらが恐怖を感じるほど近寄ってくることはありません。基本的にあまり強い鳥ではないのです。ただ、ギャーギャー声を聞きつけた仲間のシロクロゲリが揃ってこちらに飛んできたのには驚きました。いろんな方角から駆け付けた援軍、数えてみましたら合計8羽のシロクロゲリが水田に集まり、じっと私を凝視しておりました。座り込み。無言の抗議。

 

なんかまるで悪者扱い(実際あちらからすればそうでしょうけど)されて、その途端に興味をなくした私はその場を離れ、仕事に戻ったのでありました。

 

翌日。

 

一緒に働く圃場スタッフが、

 

「はい、これ。これを探していたんでしょ?」

 

と、手渡してくれたものは一つの卵。

 

あちゃーっ、オマエ持ってきちゃったのか―? あーあ、かわいそうに。

 

 

私がシロクロゲリを見ながら畔をウロついていたので卵を探していたのだと勘違いしたようです。わざわざ終業後に畔を探して見つけてくれたらしい。タマゴも肉も美味なんですって。

 

その日以来、シロクロゲリは私を天敵として見ているようです。水田に行くだけでティンティン・サイレンを鳴らして警戒するようになっちゃいました。

 

無理もないことではありますが、悪気なくちょっとからかっただけで、それに卵を盗ったのは俺じゃないんだけどなー。