雇ったオトコの再度の裏切り、続編です。

 

翌日、出勤してきたケニュアをまずは呼びつけ、怒りました。
前回は「叱りました」でしたが、今回は「怒りました」です。正確に言いますと怒鳴りつけました。教育的な指導は意識せず、感情の赴くままに怒りをぶつけました。雇用主をだまして小銭をせしめようなんて、まともな雇用関係を無視するような態度であり、非難されて当然です。

 

オマエー、昨日ソケットを調べてみたらこんな布が出てきたぞ。ふざけやがって―!

 

趣味のバンドではボーカルを担当することが多い私です。ドスの効いた声は出せませんが、結構ハリがある声質なので、大きな声を出すと割と説得力があるようです。
ボロ布を突きつけると、表情を硬くしたケニュアは一言、

 

「ミミ・シジュイ…」(私は知らない…)

 

思わず吹き出しそうになってしまいました。動かぬ証拠を突きつけられ、この状況でこのシラの切りかたはないだろう! 
怒りを忘れるくらいおかしいのですが、笑ったらおしまいなので、眼を三角にしたまま我慢します。

 

知らないはずがあるかーっ! 

 

私が声を張り上げるほどに背を丸めて小さくなるケニュア。自分の爪先ばかり見ています。

 

怒鳴りつけましたが、結局私はケニュアを解雇せず、雇用関係は継続されました。甘い、と思われるかもしれませんが、何となく意地のようなものがあって、このバカスケをちゃんと勤めることができるようにしたかったんです。
ですが、何をされるかわからないので、室内の仕事は私がいる時だけに限定しました。朝の起床時から出勤する時までに寝室の掃除とキッチンの片づけをさせ、留守中は屋外で洗濯と庭師の仕事。私が帰宅した後に居間の片づけと掃除。少々不便でありましたが、そのぶん安心でした。

 

このまま1年くらいケニュアを働かせ、良い関係が築けたと信用できるようになったら、また留守を任せてみよう、なんて考えていました。

 

そんな風に過ごしてひと月くらいが経過。
ある日、仕事中の私に警備会社から電話連絡が入りました。24時間体制で自宅に警備員を配置してもらっており、異常があればすぐに通知される仕組みになっているんです。
自宅の広い庭の一角には大家の所有物である屋根瓦が大量に積まれているのですが、それをケニュアが勝手に売りさばこうとしている、という通報でありました。販売行為は警備員によって止められ、ケニュアは逃走できないように警備会社の監視下にあるとのこと。
報せは私だけでなく、ナイロビ在住の大家のもとにももたらされ、あわてた大家はエンブに急行しました。
私は目撃していませんでしたが、大家はケニュアをかなり叱責したようです。当然ですね。怒りはしたけれども、大家は警察沙汰にはせず(なにぶん未遂でありますし)、しかしケニュアが敷地内にとどまることを許しませんでした。何をするかわからないから、だそうです。

 

終業後に私が帰宅すると、ケニュアは門の外で待っておりました。
さすがにお灸が効いたのか、しょんぼりしており、小さな身体が普段よりも小さく見えました。
特に取り柄があるわけではなく、まじめに働く根気もなく、機会あるごとにこんな風に人をだまして生きてきたんでしょうね。しかし思いつく悪事は底が浅すぎてことごとく成就前に発露してしまう。ドジな小悪人。
被害者が私だけならもう少しは我慢できたかもしれませんが、外部に迷惑が及ぶとなるともう守ってやれません。暇を出すしかしょうがない。

 

何を言っても無駄かもしれませんが、最後に一言、

 

お前に悪事はできないよ、まじめに働くことを覚えな。

 

当月分の給金を働いた日数分だけ払ってやると、雨が強く降りつける夜の闇の中、わずかな荷物を持ったケニュアはずぶ濡れのまま出ていきました。

 

そんな別れから1年後。たまたま街で見かけたケニュアはとても元気そうでした。
現在どんな仕事についているのか、私は尋ねもしませんでしたが、自分がしたことなどきれいさっぱり忘れたかのような笑顔で、また雇ってもらえます? なんて訊いてきました。 

 

いや、スマンが間に合ってるんだ。自分独りが暮らしていくくらいの家事は、休みの日に集中してやればすぐに片付いちゃうから。

 

それは本当であります。ケニュアを解雇して以来、私は誰も雇わず、家事はすべて自分でこなしているんです。
それに、元気にやっているならそれでいいや。特に関わりたくもないし、というのが正直なトコロ。