家事をしてもらうために雇ったオトコの話、続編です。
翌日、出勤してきたケニュアをまずは呼びつけ、叱りました。
雇用者の留守中に物をくすねるなんて、使用人として一番やってはいけないことだ!
しかも仕事中に飲酒するとは何たることだ!
怒る私にケニュアは視線を合わせられず、「私は知らない飲んでない」と否定しました。
じゃあなんで酒が減っているんだ?
と問い詰めると神妙に黙秘(誤りを指摘されて自ら非を認めるなんて、たぶん日本だけの習慣です)。
私は溜息ひとつついて口調を改め、静かに諭しました。
留守中に盗みを働く人間なんてその場で解雇されても文句は言えないぞ。酒をくすねてわずかな時間イイキモチになって、それで職を失ってもいいのか? 収入なくなっちゃうんだぞ?
一般常識から言って、盗みを働くハウスボーイは即解雇でありましょう。危なっかしくて留守を任せられません。
ですが私は一度雇った人間はできるだけ雇い続けることにしています。今までも使用人が物をくすねるという、同様の経験を何度か経験しており、そのたびに叱責はしますが、解雇はしませんでした。
盗みが発覚した時点で使用人も解雇されることをある程度覚悟しており、もしかしたら警察沙汰になってしまうかも、とビクビクしている場合が多い。警察に言いつけられたら、盗みの内容にもよりますが、たいていの場合ひどい体罰を受けることになります(ケニュアの場合、まさかビンから酒をくすねたくらいで警察沙汰にはなりませんが、一般論として)。
そういう状況下で、こちらが声を荒げて叱責した後に、しかし君の勤務態度が改善されることを期待して今後も雇うことにしよう、と言うと、これは効きます。「二度としません。約束します」と、使用人の中に忠誠心が生まれ、その後の関係がとてもスムースになったりもします。
災い転じて福となす。浪花節だよ人生は。
この仕事が必要ではないのか? と問う私にケニュアは切実に、
「必要です。家族を養わなくてはいけないんです」
と、訴え、
ならば今回だけは大目に見てやる。今後はまじめに働くように。
私はそう言い渡して、ケニュアとの雇用関係はその後も続いたのでありました。
そんなことがあってひと月ほど。
ケニュアの勤務態度には特に悪いところもなく、かといって家事の習熟度が急に高まることもなく、変化のない日常が続きました。
ある日、帰宅すると居間がなんだか暗い。居間の壁にはほぼ等間隔に六つの電球が配置されているのですが、そのうちの二つが点灯していないのです。薄暗く陰気。
ケニュアに言うと、
「電球を替えてみましょう」
と、脚立を持って来て新しい電球に交換。点灯しません。相変わらず薄暗い部屋。
「どうも中で断線しているみたいですね」
そっかー。じゃ、明日、電気工呼んで直してもらって。
以前も庭の外灯が点かなくなったことがあって、近所の電気工に来てもらったことがあったんです。
ケニュアが帰宅して、私独りになり、本を読もうと思ったのですが、やっぱり部屋が暗すぎて目が疲れてしまう。
しかし昨日まで何ともなかった灯りが二ついっぺんに断線するなんて変だな? もしかしたら接触が悪いだけかも知れない。
自分で調べてみることにしました。脚立に乗り、点かない電球を外してみると…。
布のきれっぱしが出てきました。ソケット内にボロ布を挟んで電極が接触しないようにしてあるんです。電燈二つとも。
ケニュアの仕業であります。
細工を施しておいて内部で断線していると偽り、翌日、私の出勤後にボロ布を取り除いて電球が点灯するようにして、しかし電気工を呼んで直したことにして、その修理料金をせしめようと謀ったのでしょう。
あのバカヤロー! またも俺をだまそうとしやがって―! 全然反省してないじゃないか―!
裏切られたことも悔しいですが、正直言って、こんなチンケなトリックでだませると見くびられたことの方が悔しい。
バカにしやがってチクショー!
(この項、さらに続く)