海外赴任時、たいていはハウスボーイを雇って身の回りのことをやってもらいます。

 

掃除や洗濯などの家事をやってもらうと単純に楽で便利ですし、また赴任当初はその国や地域の習慣などに不慣れなので、身近に助言してくれるヒトを確保しておくのは安心でもあるんです。
ケニヤに赴任して今の借家に移り住んだとき、以前からその家の管理人として大屋が雇っていた男性をそのまま雇うことにしました。ケニュアという名前のその男は、水道管が庭のどこを通っているかとか、近所にどんなヒトが住んでいるかなど、住宅の周辺情報に詳しくて頼もしく、また、小柄な体をキビキビと動かし、いかにも働き者の雰囲気があったんです。

 

小さめの一部屋に貴重品を収めて新調したカギをかけてセキュリティを確保。その他の部分についての掃除や洗濯など、主に私の出勤後に働いてもらうことにしました。

 

雇ってみてすぐにわかったことは、彼は家事があまり得意じゃなさそうだ、ということ。もちろん掃除や食器洗いはきちんとやってくれますが、洗濯ものがうまくたためない。アイロンがけも経験したことが無い。どうもハウスボーイとしての仕事は今回が初めてみたいです。
ま、努力してくれるなら、その結果にはあんまりこだわりません。継続していれば徐々に結果は良くなるはずですから。

 

ある日。帰宅すると普段通りケニュアが迎えてくれたのですが、なんだかやたら上機嫌なんです。

 

「お帰んなさい、マスター! 今日もちゃんと掃除しときましたよー、あっははー」

おお…、そうか。そりゃ、ありがと。

「見てください、床なんかきれいでしょっ?」

うん、そうだね。でも、なんで君は踊りながらしゃべるの?

 

ケニュアの身体が陽気に揺れているんです。小躍りしているよう。

 

「そんじゃまた明日の朝、まいりますんで! おやすみなさーい!」

 

ニッコニコの笑顔で私に挨拶して、彼は帰路に着きました。
なんかいいことでもあったのかな? ま、それはそれで良かった。

 

その後、私はシャワーを浴びて着替え、キッチンで簡単な夕食を用意し、イッパイやっか、と好物のバーボンを飲もうとしたら…、おんやー? おかしいぞー? だいぶ減っているんです、私のバーボン。確かまだビンの胸元くらいまであったはずなのに、腰元くらいまでに減っている。

 

あー! ケニュアのヤロー、俺の酒くすねやがったなー! 

 

道理で浮かれ調子のはずです。
さすがケニュア。
ケニュアという名前はスワヒリ語の「クニュア=飲む」に由来しているんです。

 

(この項、次回に続く)