ケニヤの強盗の話、続編です。

 

隣家に住んでいたオバチャンは、実は私が借りている家の大家さん宅で働くお手伝いさんで、日頃から「掃除や洗濯ならやってあげるから」と声をかけてくれる親切なヒトでした。ありがたい申し出は、せっかくだけど自分のことは自分でするから、とご辞退申し上げていたのですが、それでも毎朝ウチに来てくれて、私のキッチンで紅茶の準備をしてくれて、私に勧める前に自分で飲んで、飲み終わると「あとは勝手にやんなね」とご帰宅なさる肝っ玉母さんでありました。

 

その彼女の怒鳴り声が破れかけたドアの隙間から聞こえていました。

 

「ちょっとアンタ! このドアどうしたんだ? 無事なのか? 無事ならここを開けなさい!」

 

寝ぼけ眼の私がドアを開けて、実はカクカクシカジカである、と昨夜の顛末を説明すると、すぐに外に飛び出してメガホンのようにした両手を口元にあてがい、

 

「オーイみんなー! ムズングが襲われたわよー!」

 

ムズングとはスワヒリ語で「白いヒト」。日本人社会では日焼けが目立つ黒いヒトである私も、ここではムズングであります。

集まってきたご近所衆がドアから顔をのぞかせて室内を観察するなか、この事件はアタシが最初に見つけたんだからね、と主張するかのように部屋の中央に仁王立ちになったオバチャンが、先ほどの私の説明にところどころ勝手に自分の脚色を交えつつ、説明しています。聞いていると、やっぱり昨夜の騒ぎを知っていたみたい。私の大声や他の騒音が聞こえていたようです。ま、こっちは他人だし、オバチャンは女性だし、わざわざ身の危険を冒してまで助けようとは思わないよね。しょうがない。

 

騒ぎを聞きつけた大家さんも来てくれて、一緒に警察に報告に行ってくれました。二度とこういうことが起こらないように毎晩パトロールしてね、とお願いし、更に夜警も紹介してもらいました。壊れたドアは大家さんが手配してくれた大工が直してくれました。ポパイのようになった私の腕も数日で元通りになりました。

 

やれやれ、これで一安心、と言いたいところですが、警察によるパトロールは結局一度も実現せず、また雇った夜警はとんでもない酒飲みで、毎日どこかで一杯ひっかけてから我が家に出勤し、ほろ酔い気分のまま焚火にあたって体が温まると私が就寝するより早く眠ってしまうという、夜警としては全く信用できない人でありました。即刻クビにして別のヒトを雇いました。新しい警備員は弓矢の名手で(しかも矢には毒液が塗ってある)、いかにも頼りになりそうなヒトでした。

 

ですが、やはりその後も平和な夜ばかりではなく、数回にわたって強盗団の訪問を受けました。いずれも未遂に終わったのですが、ちょっと物騒すぎる。もし大人数でやってこられたらお手上げです。より安全な場所に移動した方が良さそうだ、と判断した私はキスムという町に引っ越し、その後の2年半を平和に過ごしたのでありました。