職場にはクルマで通勤しています。
毎朝、エンブの町外れで数名の同僚を拾い、州道を南下します。ケニヤ山の裾野をめぐる州道は起伏とカーブが連続しており、軽い緊張感が強いられる片道30分くらいのドライブ・コース。
先日、いつものように走行中、峠に差し掛かった時に道端にパトカーと人だかりが見えました。
ん? 交通事故かな?
雨季真っ盛りの最近は、降雨で視界が悪くなるのと濡れた路面が滑りやすいのとで、以前に増して交通事故が増えています。しかし周辺に事故車両らしきものは見あたらず、単なる交通事故にしては野次馬の数が多い。しかもその数はどんどん増えているようです。
野次馬たちが作る遠巻きの輪の中心には、ねじくれた木の枝のようなものが二本、斜め上空に向かって伸びています。運転中なので注目はできませんでしたが、近づくに連れてその枝の先端に指が生えているのか確認できました。木の枝ではなくてヒトの足です。しかも生きてはいません。死体です。
ほんの一瞥でも生気の有無はわかるのだ、と、我ながら妙に感心しました。
着衣がほとんど見あたらず、周囲に焦げた跡があるところから見て、たぶん焼死体でしょう。野次馬が取り囲んでいたために上半身は見えませんでしたが、足だけでも充分にショッキングな光景でありました。
・・・今の見た?
確かに目撃しておきながら、自分で見たものが信じられなくて、事件現場を通り過ぎてからおずおずと確認するように同乗者に尋ねてみました。
「うん。誰か焼かれたみたいねー」
・・・誰かって誰さ?
「たぶん犯罪者ね。しかも常習犯」
犯罪者?
「そ。なかば職業的な犯罪者っていうのがいて、そういう輩は警察に捕まっても袖の下を使って投獄を見逃してもらい、犯罪を繰り返すことが多いの。で、警察を信用できなくなった地域住民がリンチしちゃうの」
死者の足が遠目にはそれが何であるかわからぬほど不自然に変形していたのは、過熱で皮膚が引き攣れたせいもあるのでしょうが、着火前の暴力による作用も多分にあったようです。
「たいてい3回までね。4回目は、警察が見逃してくれても、被害者を中心にした地域住民が捕まえて殺して焼いちゃう」
・・・ふーん。
「そんなに珍しいことじゃないのよ、この辺では」
普段からクールな女性スタッフは、いつものように淡々と解説してくれました。
自分が目撃した事件には、妙に興味が湧くものです。好奇心から、あの日以来、新聞に関連記事を探しているのですが、全く見あたりません。
彼女の言うとおり、記事にするほど珍しいことじゃないのかも・・・。