私が自動車の運転免許を取得したのは20代後半。前回ケニヤに住んでいた頃のことでした。

 

その当時、日本で運転免許を取得するに一般的であった教習所を利用すると、大体そのヒトの年齢×1万円のコストがかかると言われており、その額は世界的に比較してもかなりの高額であったと思われます。その高コストこそが理由で自動車運転免許を取得していなかった私が「ケニヤで免許とって日本で書き換えよう」と考えたのは当然の成り行きでありました。

 

ケニヤでは運転試験は警察署で実施されます。科目は交通法規に関する面接と路上検定。

面接試験では、壁に貼られた交通標識のいくつかを試験官がランダムに指し、その標識の意味を即答します。当然、英語で返答しなくてはなりませんが、標識の意味を理解していることが証明できれば良いので「ノー・パーキング」とか「スピード・リミット・50キロ」などと適当な単語を並べるだけでもOKです。

 

面白かったのがミニカーを使った試験。試験する部屋に街の様子を模型にしたものが用意してあるんです。約1メートル四方のテーブル上に、往復四車線の道路やラウンドアバウト(円形交差点・ロータリー)、郵便局や駐車場やバス停などがかわいく配置されています。試験官はミニカーをその模型の適当なところに置き、

 

「ここから郵便局までミニカーを動かして」

 

受験者はその場所から交通法規上最短距離で郵便局までミニカーを移動させます。子供の遊びではないので「ブー」などと排気音を真似する必要はありませんが、必要に応じて「方向指示器を出します」とか「一時停止します」などと、いちいち声に出して表明します。「飛びます飛びます」を連呼するジローさんを連想しておかしくなりますが、試験中なので笑ってはいけません。

おもちゃを使用するので幼稚な試験に見えますが、しかしこれはかなり優れた方法だと思います。出題されるのはいずれもラウンドアバウトを経由しなくては正解にならない内容で、歩行者でいる限り絶対に経験しないその特殊な交差点の通行の仕方を試験できますし、何より具体的です。

 

その後、運転技術の検定が行なわれます。専用の検定コースなど無いので、試験は公道で行なわれます。試験用の車両なども無いので、受験者自身がクルマを用意しなくてはなりません。

私は仲良しの友人に借りたクルマで試験に臨みました。そのアルファロメオは排気管に穴が開いており、低スピードで走行しても迫力のある排気音を響かせるカッチョ良いクルマでありましたが、警察署に乗りつけても別に文句は言われませんでした。

助手席に試験官を乗せて、彼の指示で街の大通りを一回りし、公共の駐車スペースにバックで駐車させて見せ、坂道では一旦停車させられて再度発進。で、警察署に戻りました。

 

担当試験官は降車後、「あんまり上手じゃないねぇ」と渋い顔。坂道発進でエンストしちゃったのがいけなかったのかもしれません。

外国で取得した運転免許を日本でも使えるようにするには取得後3ヶ月間はその国に滞在しなくてはならず、その時点での私の任期終了はかっきり3ヵ月後。この試験に失敗すると日本での免許書き換えができなくなります。少々慌てた私は、

 

大丈夫です。免許を頂けてもケニヤでは運転しないと約束します。ですから私がケニヤでの交通事故の原因になることはありません。

 

と力説し、試験官は「ま、そんならいっか」と、私の受験票に合格のスタンプとサインをしてくれました。

 

♪やったねっ。

 

この経緯を話した友人たちからは「ケニ免野郎」とか「インチキ免許」などと長い間バカにされましたが、取得後25年以上になる今日まで無事故です。

私が免許取得のためにケニヤで支出した額は、教習所費用を含めて当時のレートで1万円以下でありました。

(試験内容や試験方法は当時のもので、現在も同じかどうか未確認です)