霊に嫌がらせをされ、その霊に対してお香とお経で追い出し作戦を謀り、しかしうまくいかずにシャーマンに助けてもらう、というスリランカでの一連のオカルト体験を紹介してきましたが、今回はそのシリーズの最終話です。

 

幼児向けのオモチャでお絵かき用の白板がありますよね。マグネットのペンで上板をなぞると内蔵されている鉄粉が浮かび上がって絵が描ける、というもの。描いた絵は白板脇のレバーをスライドするだけで簡単に消えるので何度も使えます。

娘のために購入したこのオモチャ、あまり喜ばれませんでした。この商品に限らず、娘が喜ぶだろうと親が予想して購入したものはたいてい注目されません。自閉症児の親はホント寂しいもんです。子供なんだから、デパートのオモチャ売り場に行ったら「買ってくんなきゃヤダヤダ」とツイストのひとつも踊って欲しい・・・。

 

さて。

我々家族がスリランカに滞在していた1990年代半ば、娘が自閉症であることが判明しました。妻が娘を連れて急遽帰国し、彼女の療育に専念することになりました。私は単身スリランカに残って業務続行です。

その2ヵ月後、日本から友人が遊びに来ました。妻の親友で、本来ならば女性同士で楽しい時間を過ごすための訪問であったはずですが、前述のように急な帰国で不在でしたので、代わって私が全面的にアテンドすることになりました。その客人は妻の親友であると同時に、私にとっても異性でありながら幅広い話題を楽しむことができる貴重な存在でありました。もちろんセクシュアルな関係にはなく、しかしその後彼女を案内して訪れたスリランカ国内の観光地ではどこへ行っても夫婦として扱われ、なんだかくすぐったくて良い気持ちでした。

というわけで、田舎のやもめ暮らしに飽き飽きしていた私は休暇を取ってコロンボまで迎えに出かけ、大歓迎したのであります。

 

日本から到着した彼女を空港でピックアップしてコロンボ市内のホテルに投宿し、翌日は私の任地までロング・ドライブ。自宅での夕食の後、リビングルームでワインなど飲みながら、飽きもせずおしゃべりを楽しんでおりました。

時刻が深夜を回った頃、話し込んでいた話題が少々ややこしい内容になり、図を描いて説明する必要が生じました。なんか描くものないかな・・・と室内を見渡した私は部屋の隅に積まれたままの娘の絵本の間に件の白板があるのを見つけ、おもむろに引っ張り出しました。

 

それを見た途端、

 

「・・・!!」

 

驚愕に息を呑みました。白板に老齢の男の顔が浮かび上がっていたのです。

頭髪はなく丸い頭。暗い目を中心に全体的にしわの多い印象。怒りでも憎悪でもなく、その表情には悲しみとか寂しさといった類の感情が見られたように記憶しています。

冷静に観察していたように思われるかもしれませんが、内心大きなショックを受けており、ワインの酔いが一気に醒めました。だってその白板を含め絵本やオモチャには、娘が帰国して以来私は一切手を触れておらず、掃除などをしてくれる使用人たちもそんなものに興味を抱く者はおらず、したがってこの肖像画は身内の誰かが描いたものではない、と確信できたのですから。

それにその絵はマグネットペンで描いたような単純なタッチではなく、まるで新聞写真のように細部が緻密なモノトーンで表現され、立体的でさえあり、まさしく「浮かび上がった」としか思えないものでした。

 

「上手な絵ね」

 

いつの間にか私の背後にいた友人の突然の発声にも驚いて、私はマヌケなセリフを大声で発しました。

 

なにこれー!?

 

「だから、上手ねって言ってるじゃない。あなたが描いたの?」

 

・・・誰も描いてないんだよ・・・。

 

私の変な応答に友人も沈黙し、さらに付け加えた説明で恐怖を感じたようでした。

それまで楽しかった室内の雰囲気に急に不信感がただよい始めました。気持ちが悪いので、その肖像画はすぐに消し、私は急いで厄除けのお香を焚きました。オカルト的に困ったら先ずはお香。これが私の鉄則です。

 

友人と私は酔いが醒めた顔を見合わせておりましたが、どちらからともなく「怖いから一緒に寝よっか」ということになり、二人で背中をくっつけるようにして同じベッドで休んだのでした。

 

翌日、白板を持って近所の寺へ行き、仏像の前で状況説明をして拝んできました。以来、その白板に何かが浮かび上がるということはありませんでした。ですが、浮かび上がった老人にはまったく心当たりがなく、心のどこかにしこりのように不安が残ったのです。

1週間の滞在の後、友人は帰国し、間を置かず礼状が届きました。新聞の切抜きが同封されており、そこには例の老人の顔の写真がありました。帰国便の機内で配られた新聞に載っていた記事だそうです。それによると、その老人はコロンボ郊外の寺院の責任者であった有名な高僧で、友人がスリランカに到着したその日に亡くなったらしい。死因に関する記述はありませんでした。

老人の身元は判明したものの、やはり私とは無関係でありました。ひょっとしたら借家の大家の知り合いだったかも知れませんが、確認していません。

 

これが最新の私のオカルト体験です。願わくば、これ以上新しい体験をしませんように・・・。