私は犬が好き。
たいていの犬とは、時間さえかければある程度仲良しになれると信じています。
ルアンナムターをテリトリーとするタイダム族の人々も犬が好き。
たいていの犬は料理すればとてもうまい、と信じているようです。

タイダム族のお祭りに招待されたときのこと。
会場となる村の広場に赴くと、村の人たちが席に案内して酒を振舞ってくれます。
赤々と焚き火が燃える広場の片隅には薪や鍋などが並べられ、料理の準備が進んでいるようです。野菜や他の食材に並んで赤犬が一匹、死んでいるのが見えました。
あちゃー、今日はこれを食うのかー。
ペットとしての犬が好きな私にはつらい食事になりそうです。
ですが、私は静かに覚悟を決めました。勧められたら笑顔で食べよう。

どうせ食べるなら、せっかくの機会です。料理の様子もじっくり見てやろう。
席を立ち、赤犬に近寄って観察しました。
日本犬のように三角の耳が立った赤犬。体重15キロほどでしょうか。半開きの口から舌が垂れていました。見れば見るほどよく死んでいます。眉間に傷があり、どうもここを鈍器で強く殴られたようです。
焚き火にかけられた大きな寸胴鍋で湯が沸かされ、その熱湯の中に赤犬が沈められます。二十秒ほど熱湯に浸けると、体毛が抜けやすくなるんです。



高熱で頬の肉が収縮したせいでしょう、湯上りの赤犬は歯をむき出しています。しかし威嚇するようなシワは眉間にはなく、まるで笑っているようなものすごい表情。
まだ湯気の立つ身体をナイフの背などでしごいて体毛を取り除き、丸裸にしてしまいます。
その後、焚き火に直接かざして取りきれなかった毛を焼きます。
少々念入りに焼くので、表面がかなり焦げます。血抜きされていない身体が高熱にさらされることで膨張してきます。笑ったような表情に膨れた身体。だんだんリアリティがなくなってきました。ちょっとデフォルメされた犬の彫像のようにも見えます。
近くを流れる川に持って行き、水の中で解体します。足の先、四肢、首を順に胴体から切断していきます。各部位から盛大に出血しますが、すべて川の水に混じって流れてゆきます。
胴体の部分は腹を割られ、腑分けします。小腸はこんがらがらないように、吹流しのように水中に漂わせ、内容物を洗い流します。



胴から切り離された頭は、口の部分になたの背を叩き込み、丹念に歯を折ります。その後、上顎と下顎を切断。

数人がかりで行う解体作業。さっきまで赤犬だったものはあっという間に食肉になってしまいました。



なんでもないように、努めて平静を装って観察しておりましたが、実はかなり緊張しておりました。
どうしてこんなに胸がドキドキするんだろう?
鶏や豚なら自分でさばいた経験もあるし、冷静に見ていられるのに。

ここまで詳細に観察しておきながら、結局私は犬料理を食べるに至りませんでした。
シチューにするそうですが、煮込むのに時間がかかるんですって。料理の完成を待っているうちにビエンチャン行きのフライトの時刻になってしまったんです。
食べずにすんで助かったような、でもちょっぴり残念なような、妙な気分でした。

ま、一番強く感じたのは、興味本位でタダ見をしたことに対する後ろめたさでしたが。