15年位前の話です。
当時スリランカに住んでおり、ハエの多さに閉口しました。
更に閉口したのは、どこにもハエタタキが売っていないことでした。
国民の多くが敬虔な仏教徒である彼の国では、殺生を嫌います。五月蝿いからハエを殺す、なんてとんでもないことなのです。
私も一応仏教徒であるということになっておりますが、普通の日本人であり、ハエも蚊もゴキブリも、私の生活を邪魔するものは全部殺します。
休暇で日本に一時帰国した際、買いましたハエタタキ。スリランカに持ち帰ったら、これが大活躍。面白いようにハエを殺せるんです。

日本のハエは敏感で素早い。例えばテーブルの上に止まった状態でも危険に対して常に身構えているようです。こちらがハエタタキをかざして接近すると、それだけで殺気を感じるのか、プン、と飛び去ってしまう。
常に緊張している日本のハエと比較すると、スリランカのハエはテーブルの上で腕枕しながらハナクソほじくってんじゃないかと思えるくらいリラックスしまくってます。
スリランカのハエはヒトに追われるなんて経験したことが無いんです。屋外では捕食昆虫や鳥などに食べられることはあっても、人家にいる限り、そのリスクはかなり低くなります。ほぼ天寿を全うできるのではないでしょうか。
だから完全な無防備。先祖代々全部鈍感。

そういう鈍感バエに狙いを定めて打ち据えると、我が身に起こった不幸が信じられないハエどもは「うっそー」とささやくようにうめき、簡単に死んでゆくのでありました。
死んだハエはハエタタキの柄の部分に仕込まれた専用のピンセットでつまみ、バケツに集めます。何しろいっぱいいますし、しかし簡単に殺せるので、結構忙しい。数十分、熱中すると、バケツの底に溜まったハエの死体はかなりの量になりました。

これ全部ハエ? すっげーな。

すごく充実した気分。パチンコで大当たりした時の感覚に似ています。
ハエの死骸を庭の池にまいてやると、魚たちが大興奮。
水が盛り上がるほどに躍り上がり、あっという間に食べつくしてしまいました。
きれいになった水面に揃って顔を出し、口をぷかぷかと開閉させ、
「うまかったー! もっとくれー!」
と言っているようです。

そーかそーか、うまかったか。じゃ、また明日な。

狩猟のような楽しみがあり、食卓の周りを飛ぶハエは激減するという実益もあり、獲ったハエは池の魚たちが喜んで食べてくれる。
成果も実益も評価も得られるんです。
これはひとつの趣味といってもおかしくないくらい充実した活動です。

と言うわけで、しばらく後に厭きてしまうまで、私の殺戮の日々は続いたのでありました。