Pokemon QuestⅠ:第五話:朝食 | えのこ夢

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絵も描いてた。ゲームばっかりやってるしゅふ。

Pokemon QuestⅠ:夢の中の魔道士~The beautiful World~



ヤミカラスは目を覚ました。時刻は、どれくらいだろう。この暗い森の深部に於いては、


最初はまだ、夜であるような錯覚もあったが、深く生い茂った木々が、ざわざわと風に揺れ、


その僅かな隙間から木漏れ日が漏れてくるのを見れば、空には既に日が昇っているのだということがわかった。


降り止まない雨など無い。それと同様、明けない夜も無い。しかしそれでも尚、


ヤミカラスの心は、まだカラリとは晴れていなかった。心の中に溜まった水溜りは未だ乾くことなく、


中で濁った泥水を渦のように巻いていた。


酷い夢を見たものだ。


色んなことがあって、ちょっと落ち込んだのがいけなかったのだ。


何だあんなの、よくあることじゃないか。ヤミカラスはそう思った。


所詮こんな世界に、何も期待なんかしちゃいないのだ。


そんな彼は当然、夢の中で出会ったフーディンのことなど、全く思い出しもしなかった。


ただ、最後彼が虚無の世界へ落ちていくところだけ、鮮明に覚えていた。


とにかく、いくらか眠ったお蔭で、少しは体力も回復した。これで、食料も調達しにいけるだろう。


まだ少しだけ痛みの残る尻を持ち上げ、ヤミカラスは立ち上がった。


と、どこからか、この暗い森に似つかわしくないような、楽しげな歌声が聞こえてきた。


「ちょーしょくー♪ちょーしょくー♪たーっぷーりー、ちょーしょくー♪」


少し音程の外れたその歌声は、エテボースのものだった。餌を探しに来たようだ。


エテボースは、二本の長い尻尾を交互に枝へ引っ掛け、木々の間を渡っていた。


その動きはターザンのようにしなやかだったが、体格は幾分太っていた。


と、その後ろの方からも、もう一匹エテボースが同じ要領で木々を渡ってきていた。


先頭のやつに比べると、幾分すらっとした体格で、顔もなんとなく縦に長い。


そしてもう一匹、エテボースたちに比べると劣るものの、


一本だけの尻尾でも上手にターザンしながら付いてくるポケモンがいる。エイパムだ。


えのこ夢-5+


「待ってよー、兄ちゃんたち!」


エイパムはそう叫びながら付いてきていた。さしずめ、三匹兄弟の三男、といったところか。


「・・・ったくぅ!テンは遅いですねぇ!」


面長のエテボースは動きを中断し、エイパムが追いついてくるのを待った。


片方の尻尾の先を吸盤のように枝に貼り付け、逆さにぶら下がって。この体勢は、


エテボースやエイパム特有のものだ。先頭の太っちょのエテボースも似たようなポーズで待っている。


そして彼は、そのまま腕を組んで、豪快にガハハと笑った。


「どーだ、テン!お前もそろそろ、俺たちみたいに進化しねぇとな!この厳しい森の中じゃ、生きていけなくなるぞ!」


「大きなお世話だよっ!僕、街へ出て、音楽家になるんだ!そして、平和に暮らすんだもん!」


やっと面長のところへ追いついたエイパムのテンは、息を切らしながらそう叫んだ。


そんな彼に、面長は少し意地悪な表情を浮かべながら、言う。


「ほーっ、テン君。君、まだそんな夢みたいなこと言ってたんですか?」


「夢じゃないよ!本当だよ!」


テンは面長に食って掛かる。それに、太っちょはまたガハハと笑いかけた。


しかしその興味の点は、面長とは若干異なるものだった。


「じゃあ、将来の音楽家に聞きてえんだけどよ、オレさまのさっきの歌声、どうだった?」


テンは、急に黙りこくってしまった。あんな歌、お世辞にも巧いとは言えたものではなかったが、


そうはっきりと言ってしまったら、あの兄貴のことだ、大きな拳でゴツンと一発食らわせられるかもしれない。


しかし、顔の長い方のエテボースはそれを察すと、自分の尻尾をよじ登って枝の上に立ち、


そこから太っちょを見下ろして言った。


「へったクソですって!声量だってイマイチだし、音程なんか、ドゴームに歌わせた方がよっぽどマシだそうですよ!」


「なにをーっ!おい、次男コラ!テメーに聞いてんじゃねえよ!」


と、怒ってそう叫んだ太っちょに向かって、テンは控えめに、こう語りかけた。


「んー・・・それよりさぁ、早く朝食が食べたいんだけど・・・。僕、お腹ぺこぺこだし・・・」


「ああっ!?“それより”って何だよ!テメー、今のオレさまの歌、真面目に聴いてなかったんじゃねぇのか!?」


マズイ、結局怒りを買ってしまった!テンは慌てて逃げようとしたが、そのとき、


「きゅうっ」という音が鳴った。太っちょのお腹の音だった。


「・・・チクショーっ、怒ったら急激に腹へってきちゃったじゃんかよぉ・・・“短気は損気”ってやつか?」


「“オコリザルは得をせざる”ともいいますね。よくわかってるじゃないですか。


それより、君のそのお腹の音、いい音してますよ。君より、君のお腹の虫の方が、


よっぽど音楽センスあるんじゃなんですか?」


と、勝ち誇ったように言う面長。


「いちいちうっせーよっ!早く朝食見つけっぞ!」


と、太っちょ。


ヤミカラスはその様子を、煩わしく思いながら眺めていた。


街に行くとか、音楽とか、ヤミカラスには全く理解のできない会話だった。


あいつらは、自分とは全く違う世界の生き物だ。そう思って、軽蔑した。


しかし、それは羨ましさの裏返しだったのかもしれない。


なぜなら、軽蔑しながらもヤミカラスは、暫く彼らのことを眺めていずにはいられなかったからだ。


「あっ、美味しそうな木の実、見つけたよ!」


と、いつの間にか面長と同じように木の枝に登っていたテンが、そこに実っていた、真っ赤で大降りの木の実を手にした。


太っちょはそれを見かけると、木に付けていない方の尻尾をゴムのように長く伸ばし、木の実を奪い取った。


「おおっ、テン、でかしたぞっ!じゃ、いっただっきま~す!」


テンが何かを言う前に、太っちょはその実にかぶりつく。


「ああっ、マズイですよそれ!マトマの実です!」


と、面長が叫ぶも、遅かった。


「・・・かっ・・・・・・かれええええぇぇぇええぇぇぇええええええ!!!!」


太っちょは絶叫した。マトマの実は、とても辛い木の実だ。一口で舌を火傷してしまう程に。


「アハハハハッ!凄いです、今の声量!


君、歌う時、いつもマトマの実食べたるようにしたらいいんじゃないですか?」


目を白黒させる太っちょの様子に、面長は笑い出して言った。


「うるせーっ!何度も何度も、馬鹿にしたような口きくんじゃねぇよーっ!」


それに向かって太っちょは、食べかけのマトマの実をひょいと放り投げた。


しかし面長はサッとかわし、木の実は地面に落ちて、潰れた。


「・・・チクショーッ!今日ばかりは許さねえぞ、テメエ!」


攻撃が避けられたことで怒りを増した太っちょは、ひょこっと枝の上に飛び上がり、面長と対峙した。


「ちょっと・・・やめてよ、兄ちゃんたち!今は喧嘩よりもゴハンが大事でしょ!?」


「うっせーっ!お前は黙ってマトモな食料探してやがれ!」


太っちょはまたも尻尾を長く伸ばすと、エイパムをゴツンと叩いた。


エイパムはそれで軽く小さなコブを作って半泣きになりながら、兄の台詞に従い、食料を探しにどこかへ去っていった。


ヤミカラスは、まだ彼らのことを眺めていた。全てが新鮮で、どこかきらきらしていた。


怒りを露にして声を荒げる、太っちょのエテボースさえも。なにしろヤミカラスには、喧嘩をする相手すらいなかったのだ。


ヤミカラスは、ふと目を下に落とした。もう、やめよう。彼らを見るのは、もう・・・。


そして、今ヤミカラスの目に映るのは、さっき地面に落ちて潰れたマトマの実だった。


ヤミカラスはその実を、嘴でついばみ、食べた。


辛い木の実は、このヤミカラスの好物だったのだ。


それに、もう空腹で死んでしまいそうだったのだから。そ


れが潰れていようが、彼にとっては大した問題では無かった。


「あっ!・・・ちょっと、下見てください、下!」


と、上の方から声がした。見ると、さっきまでの喧嘩はどうしたのか、二匹のエテボースがこちらに目を向けていた。


しかも、その好奇の眼差し。それはヤミカラスにとっての、新たな不幸の始まりを意味していた。




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