私が去年唯一授業をサボった日。

雲ひとつない快晴、なのに驚くほどに寒くて空気が張りつめていて切れそうだった日。

住宅街も商店街もミニチュアのように感じられたあの日。


大学の授業をサボるなんて、世間一般的に大それたことではないのかもしれない。

けれど当時の私にとってそれはとても特別な事だった。

この日の背徳感のために私は今まで意味のないような授業もサボらなくてよかったと思えた。


私と同じくらいの背の高さの彼は別段そのことを気にしてる素振りを見せない。

でも、本当は気にしてることを私は知ってる。

だから二人で会うときヒール付きの靴は履かないようにしてたんだ。


でもその日、ランチに行くのが楽しみでたまらなかった私はかわいく見せることだけを考えてヒール付きの靴を履いていった。


二人でいるとき身長が気になったことは一度もなかった。

けれど、同じイヤホンをはめたとき、ああ、ヒール履いてきちゃった、ということを一瞬だけ思い出した。


アジカンが好きな人だった。真冬のダンスを片耳ずつイヤホンはめて聞きながら歩いた。


「冬は女の子の服が可愛いから好きだな」


うんそっか。私の服が可愛いって言わない彼が好きだった。


大学から武蔵小山のお店まで徒歩25分。


体感は本当に一瞬。お店に着いてしまった。


彼はキレイめなロングコートを脱いだ。

古着好きでおしゃれな人だった。だけど、いつもトレーナーかロングTシャツしか着てるイメージがなかった。

そんな人が、襟付きの水色のシャツを着ていた。

カフェでバイトしてるからきっと今日はバイトの日なんだろうなって勝手に思ってぼんやりしていたら、

「見て。今日はシャツ。二人でランチだからちゃんとした格好してきた」

「へえ、バイトあるのかと思った」


単純に嬉しかった。朝、私と出かけることが頭にあったことだけで嬉しかった。


モテるんだろうなあ、と考えたくなかったけれど、こういうことがサラッと言えてしまう人をどこか遠い目で見てしまうときがよくある。


「そっか、嬉しい」


せめてこう言えていたらな。と何度後悔したか。


食事中、帰り道、何を話したのか、何も覚えてない。


ただ、お店を出た瞬間、「地図見ないで大学まで帰ろうよ」と楽しそうに言っていた彼の顔の記憶が薄れてきてるのが切ない。


病気じゃないかと思うほどの方向音痴なのに、なぜあのとき帰り道に迷えなかったんだろう。

帰れてしまったんだろう。


でもそんなことどうでもいい。


最近はどんどん美化されていく冬の記憶が愛おしくてたまらない。

冬が大嫌いな私を、冬に浸らせてくれる記憶のひとつひとつが。