明日は他人の私へ。
『タウ・ゼロ』読みました。
正直、理論は全然理解が追いつかない。
途中に親切なまとめが挿入されていることからも、
まあ、そうなんだろな、という。
50人の男女を乗せた宇宙船レオノーラ・クリスティーネ号は、
事故により減速システムが破壊され、
このまま宇宙を飛び続けるしかないのか? という事態になる。
結末から、
これはラブストーリーとしてフツーに映画化されてもアリだろうなとも思いましたが。
訳者の解説あたりで「フリーセックス」というのが出てきたけども、
その言葉からイメージされるフリーさはなかったなあ。
で、
震えたのは、
宇宙船に閉じ込められたまま果て無く宇宙をさまよいつづけるのか、
という場面で、
耐え抜き、正気をたもち、生き延びさせたのは、
気晴らしのスポーツや向精神薬や、
新たな研究でもなく、新しい生命をもつことの希望でもなく、
レイモントという男の、
生きることそのものへの執着だったということ。
もはや希望は残されていない、
みんなでさよならをして静かに終わりを迎えようと提案された場面での、
レイモントの態度は、非常にシンプルです。
レイモンとは司令デスクに体を押しもどした。顔の中で歯だけが白くのぞいた。「いやだ!」と彼はいった。(291p)
どんな理屈もおためごかしもなく、
ただ、
「いやだ!」
そして結局のところ彼は、
もう一度、可能性と希望を見出すのです。
船長などではなく、護衛官として乗船していたレイモントが、
最終的には乗組員たちからほとんど船長以上に頼りにされるようになっていきます。
最後のレイモントのセリフも、覚書として引用しておきます。
「いったん危機が去り、いったん人びとが自分たちで事を処理していけるようになれば……王様にできるいちばんいいことは、自分から王冠を脱ぐことじゃないのかね?」(323p)
軍隊式に荒っぽく反感を買うことも多かったレイモントが、
新世界で王様としてのぞまれるであろう立場に至ったのも、
こういう男だからだろうと頷けるのです。
とにかく一難去ってまた一難、というあんばいなので、
最初に短編で出したときはたいして評判にならなかったとかいうのは納得。
以下は私のための覚書。
レオノーラ・クリスティーネ号
17正規デンマーク王女。
22年間の独房監禁に、正気をたもったまま耐え抜いた。
なんとも宇宙船の運命を暗示させる名前です
タウ……結局のところよく分かってないのだけども、
宇宙船の速度が高速に近づけば近づくほどタウは小さくなる、
タウ・ゼロとは、高速に限りなく近づいた状態ということ?
恒星間ラムジェット
カリフォルニア大学の物理学者ロバート・W・バサードが1960年に提案した宇宙船の推進方法?
ちょうど『寄港地のない船』と並行して読んだので、
人類が移住可能な他の星へ行く宇宙船として、
船内で何世代も重ねていくのと、光速に近い速度で行くのと、
両方が読めたことになります。
最初は情景がリアルに想像できずピンとこなかったけど、
世界観が分かってくると、閉所恐怖症を発症しそうになる。
フィクションでも、現実でも、
膠着した事態を打破するのは、結局は、
後先考えず暴れるアホなのかと暗澹とした気分にならないでもない結末。
しまった、あとでまとめて感想を書くつもりだったんだわ。
ではまたいずれ。
ごきげんようごきげんよう。
明日ありと思ふ心の仇桜夜半に嵐の吹かぬものかは 親鸞