父への報告 | Stay Hungry, Stay Foolish

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仕事90%で突っ走ってきたこの7年。そろそろ形にする時がきたかな。

10年前に他界した父は、30数年前に本を書いていた。



高血圧の民間医療の本。「高血圧を斬る」という本だ。



東京生まれの父が、

福島で小さな内科クリニックを開業し、

高血圧の専門医となり、

以来40年、毎日毎日、患者さんの血圧を測り続けた。



数十年前の医療は、やたらに投薬することが常識だった。

病院に行くと、かかえきれないほど薬をもらう老人をよくみかけた。



そんな中、

長女(私の姉)を手術の際の薬の副作用で亡くした経験もあって、

父は薬に対して非常に警戒する人だった。



私が風邪をひいたときも、1錠では少し多いからと、

4分の1を包丁で削ってくれた。



薬をたくさん出せば、医者は儲かる。

でも、決してそれをやらなかった父。



そして、薬漬けの医療に警鐘を鳴らすため、

薬を使わずに高血圧を治す本を出したのだった。



本は自費出版だったが、話題を呼んだ。



でも出版後はまわりの人に配っただけで、

積極的に売ることはしなかった。

医者仲間からの批判が面倒だと、

新聞からの取材がきても決して応じなかった。



父は、自分の名声のためではなく、

高血圧に悩む人のことだけを考え、

自分の仕事の集大成として本を書いたのだった。





あれから30余年、

信じられないことに、

本は細々とだが、ずっと売れ続けている。



アマゾンでもいまだに買うことが出来る。




「43年間、患者の血圧を測り続けた著者の徹底した問診の経験、調査から生れた労作。薬を使わない高血圧症の治療法を力説。面白くてためになる問診こぼれ話64編を収録。」



父の本のコンセプトは、今も少しも古びていない。







気がつけば、私も本を書いていた。



父よりも、だいぶ華々しい出版になった。


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今日、出版して初めて実家に帰った。



真っ先に仏壇に向かい、父に報告。





話題性や取り上げられ方では、

たしかに父を超えた。



でも、移り変わりの激しいインターネットをテーマにした私の本は
売れてもきっと、いいところ1年か2年。


自分が死んでもなお、人の役に立つ本ではない。





長い間、人の役に立つものを提供しつづけたという点で、

私はまだ父の足下にもおよばない。




ただ、自分がこれまでやってきたこと、


大きな犠牲を払いながらも仕事に邁進してきたこと、


それが今回、ようやく1つの形になったことを、



おそらく、父はほめてくれると思う。